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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2588年(1928年)

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高速輸送船舶

皇紀2588年(1928年) 3月18日 帝都東京


 この日、有坂邸において恒例の有坂邸謀議が開催されていた。


 この一年で帝国を取り巻く環境や国内の事情が劇的に変化していることで今までの計画を見直す必要が出てきたからだ。


 都度都度に状況を鑑みてシナリオの修正は行っていたが、抜本的に白紙検討すべき状況になっていると参加者の誰もが認識を持ったことで開催されたものである。


 特に海軍軍令部長の鈴木貫太郎大将はジュネーヴ会議の結果や国内の造船施設の拡張による造船スケジュールの見直しとその展望を謀議に参加する財界人に諮るつもりであった。


「大角大臣の海軍政策で造船施設は順調に拡張されておる。今や長門型を同時に10隻建造しても乾ドックが埋まることがない程だ。陳腐化した艦艇の改装についても予算が降りればいつでも行えるわけだから海軍としてはフリーハンドを得た様なものであるが問題は建造すべき艦艇だ……軍令部、艦政本部、連合艦隊それぞれで活発な議論が起きておる。古鷹型を量産すべきだという意見もあれば、古鷹よりも大型の重巡洋艦を建造すべきという意見もある。列強に合わせて8インチ砲のそれという話もあるが……一向に議論が収束せんでな」


 戦略的に検討しているというわけでもなく、戦術的な要求でもなく、ただ、条約によって余裕が出来たということから議論が迷走している状態だと鈴木の言葉からは窺える。


 条約を順守した艦艇では結局のところ、戦略的運用や戦術的要求ではなく、積めるだけ積むというところに結論が至る。結果、規定された排水量で可能な武装を積むことになり、結果、トップヘヴィーな艦艇や装甲に問題がある艦艇が生み出されるという悪循環である。


 元々、この世界での古鷹型は将来的に8インチ砲を搭載する前提で建造され、装甲などもそれを前提としているモノであり、比較的排水量は大きい。ゆえに、古鷹型を基本として建造するのが理屈の上では正解なのであろうが、世の中そう言うわけにはいかないのだ。


 相手が8インチ砲搭載艦を拡充しておるというのにそれを黙って指を銜えて見ているというのは心情としては宜しくない。相手が持つならば、自分も揃えるというのが人情というものだろう。


「議論が迷走しているのは結構ですがね、巡洋艦についてはブロック工法で古鷹型よりも建造期間を短縮出来るようになるでしょうから構いませんでしょうが、商船の更新や戦艦などの改装はそろそろ本格的に進めねばならんと思いますが」


 日産コンツェルン総帥鮎川義介は巡洋艦よりも他にやるべきことがあると言いたそうな表情である。


「太平洋航路もそうですがね、インド洋、大西洋航路の時間短縮を図るためにも新型のディーゼル機関を搭載した高速民間船舶の建造を促進する必要があると思います……特に昨今逼迫している鉄鋼需要を賄うためにもマレー方面への鉱石輸送船の投入は待ったなしの状況……あとはチリからの銅鉱石の輸送にも同様に高速の鉱石輸送船は必須……蘭印やアメリカ本土からの石油輸送に必要なタンカーの建造も急がねばなりません……これらは最低でも25ノットは欲しいですね」


 鮎川の言葉は重い。


 史実の日本は戦時標準船の増産で逼迫する船舶需要を賄おうとしたが、燃費の良いディーゼルではなく、燃費の悪いタービンを積んだ上に低速力であり、潜水艦と追いかけっこをしても負けるということもしばしばあった。当然、そんな状態では被害が拡大するのは誰の目にも明らかである。


「25ノット……鮎川君、それは流石に経済性が悪いのではないかね?」


 一部から疑義が聞こえる。


「いや、鮎川君の言うことは尤もだ。船足が遅いのでは今後の潜水艦の発展に後れを取って海上封鎖されるであろうし、そもそも、資源地帯と我が帝国はかけ離れている。10ノットそこそこの速度でちんたら輸送していてはとてもではないが、国内需要を満たせなくなるという面もある……ここ数年の経済成長で金属需要は日増しに膨れ上がっている……そしていずれ航空機でさえも全金属になるだろうから、そうなれば、鉄や銅だけでなく、ボーキサイトなどの輸送もしなければならん……」


 東條英機大佐は鮎川を援護し、いくつかの問題点と展望を示す。


「よく考えたまえよ、1往復に20日としようか、それが1往復15日となれば、2ヶ月で3往復だったものが2ヶ月で4往復となる……仮にこれが4ヶ月で撃沈されたとしても、それまでに2往復も多く運べる。つまり、1万トン積みだと仮定するならば、2万トンの資源を多く運べるわけだ……それが3万トンを超える大型船ならどうだ? 6万トンだぞ? 高速化だけでなく、大型化も進めるべきだろう……それに船舶は多いほど良い。いざ戦時で建造出来る数などたかが知れている……海軍が戦闘艦艇の建造を優先したら船舶需給バランスなどあっという間に崩れるであろうからな」


 東條の言葉は重い。戦時中に南方資源地帯からの資源還送に腐心しただけあって、資源の調達と輸送がどれだけ重要か理解した上での言葉だった。


 建造しても生産性が悪い、十分な護衛も出さない、回してくる護衛は旧式艦ばかり……優秀船舶は海軍が徴用して次々と撃沈……。


 悪夢を思い出しての皮肉だった。


「確かに東條さんや鮎川さんが言う通りだと思います……我が帝国の主要な海運会社の船舶はどれを見ても20ノットどころか15ノットを下回る船、積載1万トンを切る中型船ばかりですからね……今後は大型化と高速化は急務と言えますでしょう……海軍には暫くは方針がまとまっている戦艦の近代化改装を優先していただいて、工期の短い巡洋艦建造は控えていただきましょう……なにせ、アメリカがワシントン、ジュネーヴ両会議の結果で苛立って第三の軍縮会議を提案するのは目に見えておりますからね、その際の取引材料にもなりますでしょうし」


 有坂総一郎はそう言うと鈴木と平賀譲造船少将を見る。


 彼らもアメリカが負けっぱなしで居るとは思っていなかったためかこれに同意する。

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