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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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287/910

カネがないんじゃ売るしかないんだけど?

皇紀2587年(1927年)9月18日 帝都東京 三宅坂


 この日、八木秀次教授は宇田新太郎教授とともに陸軍省を訪れていた。


「東條大佐、今日こそは予算増額をお願いします!」


「現在の予算では研究が停滞してしまいます。超短波無線通信などに応用出来るこの技術開発には技術開発に理解のある陸軍さんが頼りなのです」


 八木、宇田両名ともに東條英機へカネの無心のために上京していたのだ。


 彼らの研究は当初の電探開発という枠から大きくはみ出して超短波無線通信にまで発展していたのだ。特に超短波の特性で遠距離に届きにくいというそれを利用し、近距離通信用に利用出来るということから部隊内の野戦電話などとして活用することを想定して開発を進めていたのだ。


「敵の傍受の可能性が低く、同時に部隊内交信が容易となるこの技術開発は帝国陸軍にとっても大きく寄与するものであり、是非とも協力をいただきたく……」


 宇田は難しい表情で返答を濁す東條に畳みかける様に言う。


 史実において帝国海軍は29年に超短波無線電信実験を行い、翌30年に九〇式無線電話機を開発、制式採用し、各艦艇に配備を進めたのである。


 これは限られた近距離での無線電話による交信を可能にしたものであった。それ以前に採用されていた中波帯の無線電話では出力を絞っても傍受の可能性を払拭出来なかったのだ。


「宇田教授……我が陸軍も確かに必要としているのだが、昨今の情勢下で開発予算よりも正面装備の方に予算を回さざるを得ない状況でな……先日までの様に要求通りの額を通すわけにはいかんのだよ」


 東條は表情を暗くしてそう言う。


 ここ数ヶ月、東條が動かせる予算枠が大きく削られて、その分が小銃、機関銃、大砲の調達に回されていたのだ。


 それそのものは東條も文句はなかった。実際に、支那情勢が悪化の一途を辿っている以上、近いうちに動員を行う必要もあり、また予備の装備の調達が必要となるのは明白だったからだ。


「ですが、それでは話が違う!」


 宇田は食い下がる。城ケ島監獄に監禁されて研究の日々である彼にとって予算が降りないのでは契約違反でしかないのだ。


「宇田君……ないものを強請っても仕方ない。カネを出してくれる相手と交渉するしかないよ……。話の通じる東條さんが駄目だというのだから、陸軍さんは本当にカネが出せないんだろう……」


「ですが!」


「東條さん、我々も研究をやる以上、それ相応の支援がないとやっていられません。例の特許を売って資金に換えても良いですか? そうするしかまとまったカネが入らないのでは仕方ありますまい?」


 八木は申し訳なさそうでありつつも断固とした態度で明言した。


「いや、それは困る。あの技術、特許は世に広めるわけにはいかんのだ。有坂と相談してみるから、もう少し時間をくれないだろうか?」


 東條は八木の言葉に背筋が凍る思いがしたようである。


「では、私たちは城ケ島に戻ります。出来るだけ早く資金の融通をお願いしますね……」


 八木はそう言うと宇田を連れ立って陸軍省を辞した。城ケ島要塞から乗ってきた陸軍公用車に乗車した彼らは城ケ島に戻っていった。


――敵に塩を送るような真似をさせるわけにはいかん……あれの本来の価値は未だ理解されていない。それを英米が理解したらその時点で終わりだ……。


 三宅坂を下っていく公用車を見送りながら東條は呟いた。

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