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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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ジュネーヴ海軍軍縮会議<7>

皇紀2587年(1927年)8月10日 スイス ジュネ―ヴ


 大英帝国全権ウィンストン・チャーチルの主張によって再び紛糾した条約交渉会議は振出しに戻り、結果、ワシントン条約の不備を見直すという方向で結論が出たことで参加国の同意が得られた。


 この結果、既存の条約型巡洋艦の改装に伴う排水量増加について各国とも黙認することとなり、今後建造される艦についても基準排水量15000tを上限として時局の推移を鑑み、15万トンまでの建造枠を承認することとなった。


 だが、これは旧式化した従来型軽巡洋艦の代艦建造も含むものとし、全体のバランスを図ることとなった。つまり、安易に8インチ砲搭載巡洋艦を建造すれば、6インチ砲搭載の軽巡洋艦は建造出来なくなり、海軍戦力のバランスが崩れるというものを意味していたのだ。


 同時に既存の条約型巡洋艦、軽巡洋艦の適正化改装に伴う排水量増加分もこの15万トンに含むとされ、その結果純粋に新造出来る艦は抑えられるという形を取った。


 これはアメリカ側が特に要求したことであり、それを日英が条件付きで承認したことにより、仏伊も同意せざるを得なくなったことで合意に至ったものである。


「現在、我が帝国海軍は自主的に建造を控えておるのであるから、戦力均衡のそれを鑑みて、15万トンとは別枠で建造枠をいただく。それが認められないのであれば、同意出来ない。別枠10万トンは認めていただこうか」


 大日本帝国全権大角岑生は日本側の条件を提示した。


 現在帝国海軍が保有する巡洋艦は建造中を含めても明らかに劣勢であり、当然の要求と言えた。


 古鷹型4隻、球磨型5隻、長良型6隻、川内型4隻、天龍型2隻、夕張型1隻


 それに対して、大英帝国海軍は以下の通り。


 カウンティ級各型式13隻、ヨーク級2隻、ホーキンス級5隻、C級15隻、D級8隻


 アメリカ海軍は以下の通り。


 ペンサコーラ級2隻、ノーザンプトン級6隻、オマハ級10隻


 この大角の要求に過敏に反応したのは日英米で最も巡洋艦総数が少ないアメリカだった。


「いや、我が合衆国の巡洋艦は建造中を含めても18隻に過ぎん。それに対して日本は22隻であろう。劣勢なのは我が合衆国である。我が合衆国は太平洋と大西洋と二つの大洋を抱えておる。我々こそ別枠の建造枠を取得しなければ割に合わん!」


「ほぅ、だが、貴国の造船能力から考えればこの程度の差はあっという間に埋めることが出来るのではないのか? そもそも、我が帝国海軍は先の条約交渉で戦艦扶桑、山城を廃艦にしておる。つまり、戦艦戦力で貴国よりも遥かに劣勢になっておるというのに、それでも不満であるというのか? まして、16インチ砲搭載戦艦を日英よりも多く保有しておるというのにそれでも不満であるというのか?」


 大角の反論は鋭い。


 アメリカは国力によって制限をあっという間に埋める能力があり、なおかつ、戦艦保有数で優位に立っていて、16インチ砲搭載戦艦も日英より多い。これを理由にアメリカの主張を抑え込み、同時に英仏伊の感情的な同意を得るというものである。


「であるが、先にも行った様に我が合衆国は太平洋、大西洋両面に備えねばならん。であれば、日本側と比較しても1.5倍の戦力が必要になる。我が合衆国がフォローすべき海域は広いのだ」


「なるほど、では、我が大英帝国はアメリカよりもさらに広い海域を面倒見なければならんな……フランスも同様に西アフリカ。インド洋、太平洋の面倒を見る必要があるからな……どうかね?」


 チャーチルはアメリカ全権団を追い詰める様にフランス全権団に同意を求める。


「確かにそうだな。我が国はイギリス程は必要はないが、巡洋艦についてはアメリカより多く保有しても何ら問題はないと思うが如何? それに、貴国は軍縮を呼び掛けておる割には自国の削減幅を小さくしようとするきらいがある。それは如何なものかね?」


 フランス全権団は皆一様に頷く。


「確かにそうだ。前回のワシントンでも貴国は勢力均衡だのなんだの言いながら、他国に制限を加えつつ自国の保有数は確保する物言いが目立った。そのようなことは断固認められない」


「そうだ! 先の大戦では大西洋のかなたで武器商人宜しく、我々ばかりに犠牲を強いておったではないか! 斯様な血を流さずに利益を貪った国が他国の軍備に制限をとやかく言う資格などなかろう!」


 フランス、イタリアの全権団はアメリカ側の欧州大戦以来の態度と大英帝国に代わって世界を指導する立場にあるという態度に反感を強めていた。


 特にフランスにしてみれば、大して血を流さずに金儲けをしていたアメリカに戦債の償還もしなくてはならない上に軍備にまで口を出されるなど腹の虫がおさまらない状態であった。


「どうですかな……貴国が先頭に立って軍縮に手本を見せては如何かな? 欧州大戦やシベリア出兵で血を流した我々と違って高みの見物で金儲けをしていただけのアメリカがどれほど反感を得ているか理解した上で、他国の理解を求めるにはそれが良いのではないのかね?」


 大角は締めくくるように発言して交渉会議の休会を提案するのであった。

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