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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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碧素

皇紀2587年(1927年)7月26日 帝都東京


 相変わらずジュネーヴにおける軍縮会議は日英米仏の主張が噛み合わず空転が続いている。


 そんな日々が続く中、支那大陸においては奇妙な事態の安定が続いていた。南京事件、杭州事件と立て続けに発生した支那の暴挙に対して各国の非難は続くものの海上封鎖による実質的な経済制裁はあまり効果を挙げていなかった。


 確かに沿岸地域の文明化地域はその影響を大きく受けてはいたが、彼らにとっては舶来品が手に入らないという問題を除けば自給自足はある程度出来ているため、景気の沈滞という問題に目を瞑れば生活が出来ないという程ではなかった。


 石油製品が手に入らなければ石炭や木炭で代用すればよいわけで、また、外国製の被服が手に入らないのであれば自国の手工業のそれを手に入れればよかった。


 近代国家相手であれば音を上げる経済制裁も非文明国家相手には効果的とは言い難いものであったのだ。


 そんな中、支那大陸問題も軍縮問題も千日手で行き詰まりを見せる中、有坂コンツェルン総合研究所では一つの発明の実用化に目処が立ったのである。


「総裁、遂にやりました!」


 有坂総一郎は受話器の先の声に何が起きたのか理解が出来ていなかった。


「すまないが、何が遂にやったのか、それとどこの誰か名乗ってくれないか?」


 どこかの部署が何らかの成果を上げたのは察したが、一体何のプロジェクトなのか見当が付かなかったのだ。


「失礼致しました。総研の川崎です……総裁、例のアオカビから抽出した成分……碧素(へきそ)の実用化の目処が立ちました……帝都近郊の醤油職人や杜氏たちの協力もありましたおかげで、効率よく抽出する方法が見つかり、年内には量産体制に入り、本格的な臨床試験が実施出来る見込みです」


 碧素……ペニシリンである。


 史実では28年に偶然の産物として発見されるのであるが、条件を知っていれば、あとは観察と効率的な抽出の仕方を見つけることで実用化への道筋をつけることが出来る。


 地道な検証過程を経て、醤油業者、酒造業者に協力を願い出て、抽出の実証試験を繰り返したことで遂に一定水準の培養と抽出の基礎技術が確立したのであった。


「あとは量産化したものを臨床試験に用いて実証出来れば……医療に役立つことだろうね」


「重病患者を中心に投与して結果を蓄積しないといけませんが、恐らく数年内には販売可能になることでしょう……ここまでの研究に費やした日々がやっと報われると思いますと……」


「総研の皆の努力の結晶だね。今後もこの事業が上手くいくことを祈っているよ……改めて祝いと激励にそちらに出向くから、その時は祝宴を開こう」


 総一郎はそういうと秘書役として側にいる妻の有坂結奈を呼んだ。


「結奈、いつが都合が良かったかな?」


「8月10日くらいなら良いのではないかしら? お盆休みの前ですしね」


「あぁ、聞こえてたかな? 来月10日頃に都合をつけてそちらに出向く。それとこちらで祝宴の準備をさせるから、研究員皆の都合をつけてもらう様に手配を頼めないかな?」


「ありがとうございます。皆も喜びましょう……では、失礼致します」


 電話が切れると結奈はニコリとほほ笑んで祝辞を述べる。


「おめでとう。これでペニシリンが史実よりも15年は早く普及出来そうね……問題は欧米がこれを史実通りのタイミングで発見してしまわないか……フレミング博士だったかしら?」


 結奈は本来の発見者の名を口にする。


「八木宇田アンテナもそうだけれど、欧米のチートの芽を摘み取っておかないとこちらは圧倒的に不利だからね……これも秘密特許で秘匿してしまおうか……いや、でも、なぁ……」


 総一郎は悩んだ。


 この技術をバーターにドイツと取引をすることで最新技術や兵器、産業機械の導入が可能となる。時期を間違えなければジェットエンジン技術や音響探知などのそれと交換が可能になる。


「史実だと発見されても効率的な製造技術がなくて再発見されるまで時間があったのでしょう? であれば、放置しても大丈夫じゃないかしら? どのみち、有坂(うち)でも暫くは国内で流通する程度の分しか作れないのではなくて?」


「まぁ、そうなんだけれどね」

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