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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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脅迫

皇紀2587年(1927年)7月21日 スイス ジュネーヴ


「それは出来ません! これはロイヤルネイビーの良心であり、閣下や第一海軍卿の野心にロイヤルネイビーを道連れにするわけにはいかないのです」


 アーサー・カッスルヒルはささやかな抵抗を示す。


 なんとしてでも阻止しなければ大英帝国の威信は失墜し、ロイヤルネイビーの尊厳は野心という名の泥に塗れる……彼ら穏健派・良識派はそう考え、持参しても見せないという抵抗に出たのである。


 彼はそれを忠実に実行し、ウィンストン・チャーチルに抵抗を示した。


「ふむ、君は忠勇無比な愛国心を持っていて非常に感心する。だが、これは高度に政治的な問題なのだ。我が大英帝国の威信と帝国による世界支配という構図を維持するためには必要なものなのだよ」


 チャーチルは支配者としてのそれを示し、彼を威圧する。


 先のゼネスト暴動に対するそれを思い出したアーサーは恐怖を感じていた。


 その時、チャーチルは徹底してゼネスト破りの準備を行い、準備が出来ると同時に挑発を行いゼネスト暴動を引き起こし、それを国民に見せることで国民の敵は誰なのかと明確に示し、それに国民は賛意を示した。


 アーサーの感じた恐怖はまさにそれが海軍に吹き荒れるのではないかということであった。


「本国に詰めていた君は知らないかもしれないが、今極東は非常に危険なバランスにある。そして一度バランスが崩れたその時、我がロイヤルネイビーは見敵必殺のそれで敵を討たねばならん。だが、今我がロイヤルネイビーに存在する艦はいずれも欧州大戦時のロートルばかりではないか……そして、カウンティ級もまた条約の制限によって構造的欠陥と妥協を有している……これでいざ戦になった時には心許ないとは思わんかね?」


 チャーチルの一転して優しい声色のそれは逆に恐怖を植え付けるものでしかなかった。抵抗するならばそれ相応の報いを受けさせると言外に語っているからだ。


「電報一つで君たちの目論見は露見する。私も強引な手口を望んではいない。そして、外相もまた……いや帝国政府(ウェストミンスター)もまた黙認しているのだ。さぁ、第一海軍卿(マッデン)が託した設計原案を出し給え」


 ウェストミンスターの黙認という事実の前にはロイヤルネイビー良識派の彼もまた屈服せざるを得なかった。


「これが比類なき屈強な巡洋艦インコンパラブル・ストロング・クルーザーと仮称されている艦の要目です……比較検討されている別案はこれらです……」


 順番に提示された本来手渡されるべき資料にチャーチルは目を通すと咥えタバコをやめると資料に見入ったのである。


 そこに書かれていた要目は非常に野心的で、それでいて大英帝国の国情に非常に適したものであった。


「ふむ、10インチ砲の案と9.2インチ砲の案か……なるほどな。これは良い。現代化した高速装甲巡洋艦……いや、コンパクトな巡洋戦艦というべきだろうか……」


「閣下、しかし、それは15000トンに迫る条約を無視したものであり、海軍内部でも異論が出いているモノであります。採用されるとは到底思えませんし、国際問題になりかねません。故にこれはお蔵入りさせるべきものであります……折角建艦競争を止めたというのに建艦競争の再来となります」


 仕方なく提示したアーサーであったが、条約破りというそれを再度持ち出し再考を求める。


「これなど面白いではないか、40ノットで突撃すると書いてあるな……だが、これは駆逐艦が付いて来れず突出し過ぎて使いづらいであろうな」


「ですから、閣下、お願いですから、結果として排水量をオーバーしてしまったという体で話を収めることが出来る範囲のモノを……」


 必死に止めようとするアーサーだったが、既にチャーチルの眼中に彼はいない。


「ふむ……これらを公表して揺さぶるというのもありだろう……そもそも我が大英帝国は条約を妥結させるつもりなど毛頭ないのだからな」

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