二枚舌たちの思惑
「このはと」【イギリス弩級巡洋艦コンペ終了】のお知らせ
読者諸兄の協賛によりコンペは盛況のうちに最終日を迎えることが出来た。多くの提案ありがとう。
現在も検討中ではあるのだけれど、今回のコンペで選外になった提案も別の機会に活かすことが出来ると思っているので、その時に「俺の提案した船だ」と思い出すことがあるかも。
さて、今回のコンペでそれなりに盛り上がったと作者的には思うのだけれど、また別の機会にコンペ型式もしくはアンケートみたいな感じでの読者の考えを反映させる時をつくりたいと思っているので、その時は絶大なる協力をお願いしたいと考えている。
読者諸兄、今回の企画に参加してくれてありがとう!
皇紀2587年7月21日 スイス ジュネーヴ
この日の早朝、第一海軍卿サー・チャールズ・マッデンのメッセンジャーがジュネ―ヴの駅に降り立った。彼の使命は大蔵大臣ウィンストン・チャーチルに会うことであった。
第一海軍卿は彼に刺激的な設計原案のいくつかを持たせ、それをチャーチルに渡すように指示をしていたのだ。
「これらの原案のいくつか交渉の材料としてアメリカの譲歩を引き出すか、日本の興味を引かせるように伝えよ」
だが、メッセンジャーの彼はこの時、チャーチルにすぐに会うことが出来なかった。
チャーチルはこの日、早朝から外務大臣オースティン・チェンバレンと会談しており、チェンバレンから自重と余計な波乱を招かない様にと厳重な抗議を受けていた。
大英帝国政府として英米の間に波風を立たせたくないという意思表示ではあったが、既に公言した弩級巡洋艦建造示唆については特に叱責を受けなかったことは事実上の黙認を意味していた。
「ウィンストン、君の奔放な行動には大変困っているのだが、実際に君の発言そのものを否定したりはしない。海軍もその気になって第一海軍卿を中心に君の言うところのドレッドノート・クルーザーの設計に取り組んでいるという専らの噂だ。ひょっとしたら海軍から君に使者が訪れるかもしれん」
チェンバレンは表向きはイギリス代表団の暴走を止めるべく参上したという体裁を取っていたが、支那情勢を考えると軍縮などと言っている場合ではないと判断していただけにチャーチルの発言意図を理解していた。
いや、チェンバレンもまた上海に行ったことで情勢を把握し、同時に日本が列強としての責務を果たしているが軍縮条約や関東大震災という枷のために十分に派兵出来ない状況であることを理解していただけに自国海軍力の拡張は必要であると認識させられていたのだ。
「海軍が使者を寄越したとしてだ、政府は私にどう対応せよと望むのかね? 居留守して追い返せとでも言うのかね?」
チャーチルは明快な回答を求めた。
「その時は会っても構わんよ。交渉材料に使えると判断したら使えばよい。だが、相談くらいはしてもらいたいものだ……私もクーリッジ大統領と会談を持って発言意図の説明をしてくる……まぁ、無駄だろうがね……クーリッジは兎も角、他の連中が対抗意識持って動いていたら話し合いにならんだろうな」
「わかった……では、私は海軍の使者が来たら会って話を聞こう。それで、使えると判断したら交渉材料としよう。あんたには迷惑をかけるが、流石にあんたも知っている通りの極東の情勢だ。いつドンパチ始まるかわからん戦場だからな……出来れば現地の連中が楽に戦争出来る様に助けてやりたいんだ」
チェンバレンはチャーチルの懇願に近い申し出に首を縦に振りそうになったが耐えた。
「君の言いたいことはわかるが、外交はそう単純ではない。相手の出方も見つつだよ……さて、では私はクーリッジと会談をしてくる……くれぐれも軽挙妄動は慎んでくれ」
チェンバレンはそう言うと立ち上がり部屋を出て行った。暫くすると入れ替わりに海軍からのメッセンジャーが入室してきた。
「さて……待っていたよ。ロイヤルネイビーは私にどんな提案をしてくれるのだね?」
チャーチルは両手を広げて出迎えた。




