比類なきモノ
「このはと」お知らせ イギリス海軍新型巡洋艦コンペ開催
ビヤ樽男と変態紳士の国の弩級巡洋艦についてコンペを開催しようと思う。
〇コンペの開催趣旨
ビヤ樽男が場の空気を読まない発言をして世界が凍った件について、その後始末をする必要があるため。
〇仕様
ビヤ樽男が満足しそうな性能で、従来の巡洋艦を凌駕しつつも、史実ワシントン・ロンドン両条約の条件を逸脱しない範囲で、極力1920年代後半の水準で建造可能な常識の範囲の巡洋艦。
〇変態どもの要望
植民地が広いから巡回するのに適したもの。
攻守のバランスが取れたもの。
建造コストと期間が常識的かつ出来ればいい感じで。
〇コンペ募集期間
4月30日まで。
5月連休中に公式に選定と評議を行う予定。
<追加>
現在の提案では、皆揃って1万トンの枠で非常に難儀している様である。そのため、少し条件を緩和してみようと思う。
●排水量について、15000tまで許容値とする。
●機関について、ディーゼル機関に変更することも可とする。
●主砲について、25.4cm、23.4cm、20.3cm、18.1cmを基本線とする。
●装甲について、重量軽減目的で削ることもあり、逆に装甲を厚くして武装を減らすという方法もあり。
皇紀2587年7月3日 大英帝国 ロンドン
大英帝国海軍省は日曜であるというのに活気があった。足しげく提督や技官らが海軍省の一室に出入りしているからだ。彼らの熱気はまさに文化祭前の準備期間を思わせるものがある。
いや、実際に彼らのそれは文化祭前のお祭り気分そのものであったと言えるだろう。
「次の設計案を出せ!」
第一海軍卿サー・チャールズ・マッデンは何時になく興奮していた。
彼は、巡洋戦艦、潜水艦、航空母艦を産み出した先駆者たる元第一海軍卿ジョン・アーバスノット・フィッシャーの演じた役割を自分が演じられるという興奮を抑えきれずにいたのであった。
「ブルドッグがぶち上げたドレッドノート・クルーザー……いや、比類なき屈強な巡洋艦をまとめ上げなければならん! 今こそ、その機会だ!」
彼は部下から上がってくる概念設計案を片っ端から見ては没を出す。
「こんなものでは駄目だ。ドレッドノート・ショックを与えると奴は言ったのだ。こんな性能では虚仮脅しにもならん!」
彼の元の送られてくるそれらはいずれも条約型巡洋艦の枠を超えているものではなかった。
その多くは8インチ砲搭載で連装4基または3連装3基の標準的なものが多く、変則的なものであっても連装3基で装甲や艦内環境を充実させたものだった。
「誰か、もっとインパクトのある性能を示すことが出来んのか!」
誰もが基準排水量1万トンという制限ではこれが限界だと認識していた。これを打破し、彼やウィンストン・チャーチルが満足する性能を示すには基準排水量1万トンを無視して条約を逸脱するしかないことを理解していたが、それを口にはしなかった。
元々、不満はあっても新興国として急成長した大日本帝国の脅威を抑え込むためにアメリカと結託したのはイギリスであり、それを自分から無視するなど流石に二枚舌のイギリス人であっても躊躇いを感じずにいられなかったからだろう。
「23.4cm、欲を言えば25.4cmを搭載して従来の巡洋艦を一方的に撃ち破れる、そして十分な速力がある艦を誰か設計出来んのか!」
明らかに彼は酔っていた。自分がフィッシャー以来の新機軸軍艦の推進者という称号を得るチャンスだけに何としてもこの機会を逃すものかという野心がそうさせていたのである。
そして、同時に彼を止めるべき存在もまたここには居なかった。軍縮によって抑え込まれていた軍人の欲望を責任者たる第一海軍卿その人が解き放ってしまったからだ。




