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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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ジュネーヴ海軍軍縮会議<3>

皇紀2587年(1927年)6月30日 スイス ジュネーヴ


 箱根で荒れる東方会議が開催されている間、ジュネーヴにおいても会議は荒れていた。いや、正確に言えば空転していたというべきだろうか。


 フランスの寝返りという事態によって、日英仏の協調的軍縮破りの目論見が破綻し、各国代表団の丁々発止のやりとりが続いていたのだ。


 彼らの議論の焦点は大型駆逐艦であった。


「我が帝国海軍が建造中であり就役間近な特型駆逐艦に疑義を抱いていることはよくわかった。確かに、我が帝国海軍の特型駆逐艦は驚異的性能であろう。しかし、我が帝国の懐事情を考えると、我が帝国海軍は帝国政府に大量生産による数による優位性確保を願い出ることなどできない。まして、主力艦たる戦艦の保有制限、そして率先した扶桑型戦艦2隻の退役という実態を考えれば、優秀な性能を有する高性能艦を建造するのは当然のことであると言える」


 日本側代表の大角岑生海軍大臣は特型駆逐艦の建造趣旨を明確に主張する。


 ワシントン体制以後の日本は如何に主力艦の補完となりえる艦艇を造り上げるか、限られた条件で如何に優秀な軍艦を造るかに血道をあげていた。


 史実のジョージ6世戴冠記念観艦式に参加した巡洋艦足柄を評したという逸話があるが、真偽のほどは兎も角として、「真なる軍艦を初めて見た」「飢えた狼」というそれを聞いたことがあるものは多く居るだろう。


 皮肉であるという意見もあるが、実際問題として、戦闘特化した純粋な意味での戦闘用軍艦であるのは間違いなかった。その代わり居住性が犠牲になっていたり、未熟な技術による皺寄せはあったにせよ、欧米にとっては明らかな脅威と映ったのは間違いない。


「個艦性能を求め、それによって数的劣勢を挽回するという考え方が許せないというのであれば、フランスの建造中の大型駆逐艦は如何なものか? これは駆逐艦ではなく、巡洋艦と考えるべきものではないか。当然、我が帝国海軍はフランスが斯様な駆逐艦を建造するのであれば、対抗上、自主的に中断している巡洋艦の建造計画を再開するしかない。一方に不利な条件を求めるなど論外である」


 大角は古鷹型巡洋艦の建造再開をちらつかせる。


 そもそもこの世界では日本が巡洋艦建造を自主的に停止している。無論、これは東條-有坂枢軸の思惑、大角自身の思惑が偶然に合致した産物である。


 しかし、イギリスはワシントン条約で一番損をした形で戦艦を廃艦させられていたことから枠外の巡洋艦建造を進めていた。


 特にウィンストン・チャーチル大蔵大臣兼支那問題担当大臣と繋がりを有するイギリス海軍の一派はこれを強力に要求し、またチャーチルもこれに大いに賛同していたことでイギリス海軍は着々と巡洋艦戦力の拡充に邁進していたのだ。


 そこに支那における動乱が発生し、イギリス海軍やチャーチルだけでなく、議会、世論も同調するようになったのであるが、これが日英の接近の大きな要因となったのだ。


 建造したいイギリス、建造の必要性があるが建造中断している日本、両者の思惑は完全に一致していたのである。


「我が大英帝国もまた日本帝国に賛同する。目下、支那問題で巡洋艦を必要としている我が海軍もまた、対抗上大型駆逐艦もしくは従来の巡洋艦を建造せざるを得ない。無論、そうなれば、従来の巡洋艦を凌駕する巡洋艦の建造をも視野に入れざるを得ない」


 チャーチルの言葉は議場に大きなどよめきを齎した。


 従来の巡洋艦を凌駕する巡洋艦……ドレッドノートを建造し、それまでの戦艦を一気に旧式艦に追いやったイギリスが再び同じことを行うという恐怖が全ての代表団を凍らせた。


 いや、ただ一人不敵な笑みを浮かべる人物が居た。


――古鷹型ショックの代わりをイギリスが演じてくれるならこれ幸いだな……本格的な重巡洋艦の建造に取り掛かる時機到来というものだ。


 大角は口元を隠しながらニヤリと笑っていたのであった。

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