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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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東條、岸を飲み込む

皇紀2587年(1927年)6月27日 神奈川県 箱根


 東條英機は岸信介に提案を持ち掛けた。


「再度強調するが、ここから君の商工省の出番というわけなのだ。我が帝国の冶金技術の底上げをせねば、いくら巨砲を揃えようが、理論上で敵より勝る砲を造ろうが、冶金技術の底上げがなければ、極論言えば、敵の装甲に砲弾が命中してもその時点で砕け散ることすらあり得るだろう」


 提案というのは正しくないかもしれない。事実上の脅迫に近いものだ。個々の企業ではなく、帝国中の金属工業関係企業の技術水準が向上させるように政策として実行しろというものである。


「君たちが算段している重要産業統制法という法案については多少私も情報を得ているのだが……まさに君たちのなすべきことがこれではないのかね? 国家が産業界に目標とすべきところを指し示し、それに向け、産業界に協調切磋琢磨させる。そしてそれが国家及び国民に還元される……野放図の経済発展ではなく、目標を示すことで健全な経済と技術の発展、産業の育成を狙うべきであろうと思うが如何?」


 東條は岸に明確に具体的事例を示すことで岸の胸の内にある野望と理想的国家像に訴えかけたのだ。


「確かに私の持論は経済自由主義ではなく、統制主義……より正確に言えば協調的経営者資本主義というべきものでしょう……ふむ……なるほど、確かに東條さんの仰ることは私の理想に合致する部分があると言えるでしょうな」


 岸の言う協調的経営者資本主義とは如何に?


 彼は昨26年に欧米へ外遊しており、その際にアメリカの経営者資本主義に遭遇した。その時に彼は手記にこう残している。


――亜米利加に比べてみると殆ど我々の今まで考えていたことは桁違いのお話にならない事柄である。


 これが岸にとって大きな転機になったのは間違いない。


 あまりの国力の差、資本主義の違いに絶句し、暗澹たる気持ちで渡欧した彼はドイツにおいて再び衝撃を受けたのであった。


――独逸の化学工業の組織を目の当たりにするに及び決して日本産業の資源の貧弱を憂えるに当たらない。


 アメリカで愕然とし頭を抱えていた人間の言葉とは思えない矛盾した感想である。だが、それこそが彼の政治的野心、政治的主張、理想的国家像の芽生えた瞬間だったことは間違いない。


 彼がドイツで感じ取ったそれは当時のドイツの情勢によるものだった。当時ドイツでは産業合理化が叫ばれ、これを彼は第二の産業革命と看做した。


 産業合理化とは、単なる協調なき自由競争や利益追求によるそれではなく、協調を精神的主幹とし強制ではなく誘導的手段による自発協力によって成し遂げられるコスト低減や技術的進歩、生産性の拡大を目指すものだった。


「私は常々こう考えており、”国民経済において競争というのはある種の制限を受け、全体の利益を増進するように仕組まれねばならない”と……それを周囲に周旋して回っておったのですが、今まさに東條さんの提案でそれを認められた思いがしますぞ……」


 岸は大いに頷くと笑みを浮かべた。


「この岸信介、商工省を説き伏せ、重要産業統制法の根幹として協力することをお約束しましょう……これは列車砲のみならず、陸海軍の兵器生産、いや、帝国の金属工業に大きく寄与することでありましょう」

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