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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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列車砲

皇紀2587年(1927年)6月27日 神奈川県 箱根


 永田鉄山の主張は正しいが時期尚早であり、また東條-有坂枢軸という政官軍財が結託した政治勢力には一歩及ばない。永田と盟友関係にある岸信介もさすがにこればかりは応じられなかったのだ。


 岸はこの会議の主導権は実質的に東條-有坂枢軸にあることを理解していたこともあり、傍観者に徹することに決め込んでいた。彼にとっての関心事は軍拡・軍縮ではなく、現下の状況が変化し、満州に勢力を伸ばした後のことである。


 仮に奉天総領事である吉田茂の主張を受け、この場での方針が満蒙進出・確保に固まったとしたならば、いずれ張作霖は用済みとなり排除されるか、ソ連の力を借りて始末するか何れかになることは必至であり、その際に満州における主導権を得るのが誰になるのか、それこそが岸にとっての重要関心事であり、その主導権を勝ち得ることが重要なのである。


――内地の政治的主導権は東條-有坂枢軸が暫くは握るだろうが、いずれ、自分が出世、我々革新官僚が重要ポストを確保した後はそうはならんだろう……。その基礎となるのが満州だ。であるならば……。


 岸の心中は10年後、20年後の日本の舵取りを自らが担うという野心で満たされていた。


「ところで、有坂さん……装甲列車についてはわかったのだが、その列車砲ですがね……それはどうなんですかね?」


 不貞腐れ気味の表情をする永田を無視して岸は有坂総一郎へ話を続けるように促す。


「あぁ、岸君。それは私が話そう……。私は兵器局器材課長であるし、技術本部にもここ数年出入りしているからな」


 東條英機がここで口を挟む。


 彼は昨26年の春に兵器局器材課長に就任していた。技術本部からの推薦や各方面から兵器開発に理解があると推挙された結果である。


 昨26年に総一郎が渡欧した際にクルップ社との渡りをつける様に密命を出し、その際に総一郎は203mmの列車砲用砲身を3本発注したのである。世界が南京事件に注目していた頃、その砲身は秘密裏に木更津の陸軍演習場近くに設置された有坂重工業の陸軍向け工場に陸揚げ保管されていたのである。


「技術本部、鉄道連隊、鉄道車両メーカーの協力によって車体、電源車が開発され、これは先の装甲列車にも用いることになるのだが、これによって共通性と量産性を確保している。7月中には公試が可能であり、富津において試射を行う予定だ……クルップの話では射程40km程度は見込めるということだ。無論、これは旋回が可能であるから360度全周攻撃が可能だ……それと……秘匿爆弾の使用をすれば広範囲に渡る面での敵陣地制圧も可能だが、これはまだ開発中である」


「東條さん、随分景気の良い話ですな。随分とカネが掛かったのではありませんか? とても有坂重工業のみでどうにかなるとは思えませんが、陸軍は……東條さんはそのカネをどう捻出したのか興味がありますな」


「蛇の道は蛇という……お互い表に出来ないものがあるとは思わんかね? ただ、砲身については陸軍の技本の研究予算で元々あったものであり、それについては正規の手続きを経ていると断言しよう」


 東條はニコリと笑みを浮かべ岸にこれ以上の追及は許さないと意思表示をしていた。


「なるほど……それは……失礼をしました」


 岸もすぐに引き下がる。そこはお互いに官僚であり、手口は共通している。そこを詳らかにするのは明らかな紳士協定違反である。


「そこで、岸君、君の商工省に頼みがあるのだ。我が帝国は冶金技術が非常に弱い。クルップで買い付けたこの砲身と同水準の砲身を造ることは我が帝国には無理難題であろうと思う。それはそこの有坂君の会社でも同様だ。つまり、そこからが君の商工省の出番というわけなのだ」


 東條はここで岸に花を持たせ、同時に永田と岸の盟約を破綻させる策に出たのである。

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