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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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悪化する支那情勢

皇紀2587年(1927年)6月4日 満州・支那情勢


 支那情勢は奇妙な静けさとともに睨み合いが続く。満州ではハイラルを境にソ連と張作霖が塹壕を構築し睨み合いが続き、アメリカは張を支援するため天津や大連に物資を満載した貨物船が度々来航していた。


 この2年で南満州鉄道は赤字路線に苦しんでいたが援助物資輸送特需で息を吹き返した。そもそも、満鉄が赤字路線に陥っていた理由は張作霖が協定を破って満鉄に対して並行線を建設し、ダンピングによって物資輸送を阻害していたことによる。


 特に主要な産業である鉱工業におけるダメージは深刻であり、炭鉱のある撫順においては並行線に旅客貨物ともに奪われてしまい廃線寸前という有様である。その上、米資本による炭鉱の採掘まで始められたこともあって石炭の価格維持すら難しくなってきたのである。


 こういう状況にあって満鉄は経営改革と同時に他業種への進出を強化し、鞍山に史実よりも早く大規模な製鉄所の増設を行い、ここに経営資源を投下することで算出する石炭の消費と生産力強化、内地への輸出強化を進めたのである。


 これは内地の列島改造とも連動しており、八幡製鉄所などの内地の大製鉄所だけでは賄いきれない鉄鋼需要を満たす意図もあった。


 赤字の鉄道事業以外で利益を出し、本業を維持しつつ、情勢の変化と反撃の機会を待っていた満鉄であったが、輸送特需によって利益を回復すると同時に余裕のなくなった張軍閥から並行線を買収し、これを満鉄線に組み込み、鉄道事業の立て直しが可能となったのである。


 一方、華中方面は上海を事実上占領する列強と蒋介石率いる北伐軍が対峙し、一触即発の情勢であった。いや、実際には偶発的な戦闘は各地へ繰り返されていたのである。


 日本製の土木重機が到着すると列強は租界外に塹壕やトーチカを設置し始め、同時に占領区域の拡大を行ったのである。お題目は「上海租界の安全確保のための予防的措置」であり、一種の予防戦争論であった。


 この列強の動きに北伐軍も過敏に反応し、迫撃砲弾による嫌がらせの様な攻撃を行い、反撃に出た列強軍と小規模な戦闘がそこかしこで発生していた。


 もっとも、それが小規模かつ偶発的で済んでいるのは蒋による自制方針によるものだ。大規模衝突など起こされては一番困るのは蒋自身だったからだ。


 だが、それでも彼の忍耐の限度はある。しかし、彼の忍耐が限度を超える前に現地部隊が暴発してしまったのだ。


 上海から少し離れた杭州は天然の良港を抱える貿易の要地であるが、昨今の情勢のあおりを受け明らかに経済が沈滞していたのである。この状況に耐えかねた地元の商工業者が沖合に停泊する列強艦隊に使者を派遣し、列強派遣軍相手の商売を持ち掛けたのである。


 上海の列強派遣軍や在留邦人らを支えているのは実質的に日本側からの食糧輸送によるものであり、その輸送による対価は彼らにとって重くのしかかるものであった。


 杭州の商人たちからの申し出はそういった意味でありがたいことであった。現地で食料を調達出来るならば派遣軍だけでなく在留邦人らの生活も安定するため、その商談はすぐにまとまったのである。


 商談から数日後、大量の生鮮食料が上海に届けられたのであるが、これが現地に駐屯する北伐軍の知れるところとなり、北伐軍は激昂し、杭州商人たちを虐殺し、周辺農民たちをも同罪として処刑したのである。杭州虐殺事件が発生したのであった。


 この事態はすぐに蒋の下に届いたが、彼もまた忍耐の限度であったためこれを無視し、逆に列強に与する者は漢奸であると宣言するに至ったのだ。

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