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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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若槻内閣崩壊

皇紀2587年(1927年)4月17日 帝都東京


 緊迫する支那情勢とともに若槻内閣は国内経済という前門の虎後門の狼という状態に陥っていた。


 台湾銀行の救済に関する法案を枢密院によって阻まれ進退窮まった総理大臣若槻禮次郎は今後の政権運営に自信を無くし内閣総辞職を閣議において口にしたのであった。


 枢密院は天皇の諮問機関として設置され、正副議長他24名の枢密顧問官によって構成される。この他には内閣の国務大臣も議席を有し、表決に参加するものである。だが、これが逆に内閣にとって不利になることが多かった。


 内閣の一員たる国務大臣が表決に参加することで、その表決の結果を内閣が受け入れない場合、内閣の主張は筋が通らないと認識されるからだ。


 この時、まさに史実通りに若槻内閣はこれによって苦しめられていたのだ。


「総理、内閣を投げ出すのは簡単ですが、この国難の時期ですぞ、諸外国だけでなく国内にも受けが悪いとは思いませんかな」


 大蔵大臣濱口雄幸は弱気になっている若槻に苦言を呈する。


「濱口さん……だが、帝国議会は野党が特に非協力的であるし、与党の政友会でも最近は増派を支持する者も多い……それにアレだよ……アレを持ち出されたら私は続投するつもりでも野党がそれを許さんだろうさ」


 若槻のいうアレとは……。


 若槻は年始に予算通過を与野党の党首に頭を下げて依頼していたのだ。新帝践祚という状況で天皇の宸襟を騒がすようなことをしたくなかったからの根回しであったが、これが彼の命取りになっていたのだ。


 そのため、帝国議会で予算は無事通過したが、それ以後も総理の座に居座る若槻に対して野党政友本党と与党立憲政友会から批判の声が上がっていたのだ。


 この場にいる立憲政友会の閣僚もそれを承知しているが、国政運営にそれほど大きなミスがあるわけでもない若槻下ろしに加担しようとまで思ってはいなかったのだが、内心はケジメをつけろと思っているのは間違いなかった。


 挙句、野党からは合意文書まで暴露され、”ウソツキ禮次郎”と陰口をたたかれる始末である。


 そして、枢密院からもノーを突きつけられてしまった彼に既に逃げ場はなかったのだ。


「だが、ここで退陣して政友本党の馬鹿どもに政権が渡りでもしたらどうするというのですかな?」


 濱口はそれをこそ懸念していた。


 立憲政友会には一線から退いている原敬や閣内で元総理大臣として睨みを効かす高橋是清らのコントロールがあるが、政友本党には東條-有坂枢軸とそのシンパに睨まれている存在が属している。彼らが駄犬やアホウドリと侮蔑している存在だ。


「そうは言うが濱口君……政友本党に禅譲するのは憲政の常道……政党政治の基本だよ……」


 若槻は困り顔で閣僚を見回すと皆一様に渋るようではあるが頷く。


 彼らも政党政治を担う一員である以上、それを否定することは出来なかったのだ。


「どうでしょう? ひとつ議会工作を行うことで……政友本党への政権移譲を阻止するという方針で……」


 ここで発言したのは数年来、東條-有坂枢軸に参加する政治家であり、列島改造を指揮する鉄道大臣仙石貢であった。


「今の憲政会と立憲政友会は政策的にはほぼ同一のものであるのですから、そもそも政党として分裂している必要はないのではありませんか? であるならば、2党合わせて250議席と安定多数を確保出来る大政党を組織すれば良いのではありませんかな?」


 仙石の発言は閣僚らにとって目から鱗であった。


 実際問題として憲政会も立憲政友会も与党として協調しなければ議席数で政友本党に太刀打ち出来ず、原政権後期から一貫して政策はほぼ一致して継続している。


 そのため、次回選挙を考えれば共闘よりも一つの党として選挙戦を戦う方が利益となるのは目に見えていた。実際に両党間で選挙戦に関しての会合も何度か持たれていたが党の壁を破ることが出来ず暗雲が立ち込めていたのだ。


「仙石君、それは良い案だ。私もその提案には賛意を示したい。岡崎君、森君、どうかね?」


 仙石の提案に真っ先に賛意を示したのはダルマ宰相こと高橋であった。


 高橋から話を振られた二人は突然のことに返答を窮したが向かい合って頷くと応じた。


「高橋さんが賛同するのであれば、我々は異存はない」


 陸海軍大臣の2名を除く閣僚9名中4名が即座に政党合併に賛意を表明したことで与党第1党の憲政会閣僚も顔を見合わせ頷いた。


「若槻さん、あなたが退陣するなら両党の合併をした上で250名を超える議会勢力を確保してからにしてくれないか?」


 濱口はそう言うと若槻は複雑な表情を浮かべつつ頷いた。

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