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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2587年(1927年)

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そんなものすら自給出来ていない

皇紀2587年(1927年)1月4日 帝都東京 新橋 有坂重工業本社


 帝国臣民が皆一様に喪に服した正月が明け、この日、有坂コンツェルンも仕事始めとなった。


 改元され、心機一転といった表情で皆業務に取り掛かっている有坂コンツェルンだが、社長室の主は頭を抱えていたのである。


「まさか、ドラム缶如きを我が国は自給出来ていなかったとは思いもしなかった……ドラム缶だぞ、ドラム缶。なんだって、こんな基礎的な工業製品が自給出来ていないんだよ。日常的に使うものが自給出来ていないなんて誰が思うんだよ。意味が分からん!」


 有坂総一郎は今頃になってこの事実に気付いて憤っているのだ。


 史実において日本初のドラム缶はこの27年に初めて製造されたのだ。それもアスファルト用としてである。小倉石油の東京製油所、永井製油所で製造され使われたのが最初なのである。


 そして、本格的なドラム缶製造は29年に日本石油が下松製油所で量産し、自社使用したのだが、開戦直前までアメリカからドラム缶は輸入され続けていたのである。


 これは大きな問題を抱えているのである。


 日常利用するだけでなく、戦時中前線への燃料輸送に使うべきドラム缶を自分たちで賄うことが出来ていなかった。それだけでなく、そもそもタンカーの保有数が極端に少ないために貨物船にドラム缶を積み込んで石油製品の輸送に使うという無駄な運用まで行われていたのである。


「なんでこんなに石油製品の輸送コストが高くて非効率なのか調べたら、まさかこんなカラクリがあったなんて呆れてものが言えない」


 出光佐三の出光商会とのやり取りで発覚したこの事実に総一郎は頭を抱えている。彼の愚痴とも不満ともいえる言葉を聞いているのは無論、彼の秘書役である妻の結奈である。


 彼女もこれを知った時にはさすがに信じられなかった様子を示していた。だが、出光からの資料と現在の国内にある船舶に関する資料を見比べた結果、彼女は逆に笑みを浮かべてしまった。


「よくこれで戦争なんてやれたわね。いえ、そもそもこんな状態で支那事変を4年も続けることが出来たわね。国民党も共産党もどれだけ弱いの? それとも馬鹿なのかしら……。いえ、無能なの?」


 彼女にしてみれば、補給も疎かな状態のアウェーの軍隊に、色々な面で優位なはずのホームの軍隊が負けるということが理解出来なかった。


「ねぇ、旦那様? 異常なのはどっちなの? ドラム缶を他人任せにしていて戦争する連中? それとも、圧倒的なハンデ付きでボロ負けする連中?」


 彼女の問いに総一郎もすぐには答えられなかった。


 史実の帝国陸海軍は、色々な意味でアレなだけに肯定も否定も出来ない。また、同様に世界には不思議な戦争の例はいくらでもあるのだ。たかだか連隊規模の軍隊が軍団規模の敵に圧勝するということもある。また、捕虜の数を面積単位で報告するという意味の分からないことも発生している。


「世の中には頭がおかしな連中はいくらでもいるし、常識で測れないものもいるくらいでもあるということなんだろう……。あぁ、しかし、困ったな……。史実よりも自動車化を進める予定だったのに、まさかこんなところに落とし穴があるとは思わなかった……」


「そうね……出光さんのところも自前で用意する体力なんてないでしょうしね……。今ぐらいから準備しないと明らかに手遅れになりますわよ……。特に陸軍さんは燃料は買えるモノという意識の方が多いですからその辺りも考えると……」


「お先真っ暗だな……」


 正月早々暗い気持ちになる転生者夫妻であった。

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