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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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北鮮開発プロジェクト

皇紀2586年(1926年)10月20日 帝都東京 満鉄東京支社


「記者諸君、これから発表するものについて、一言一句漏れなく伝えてくれることを希望する。同時に報道各社、記者諸君自身の主義思想を付け加えることなく、会見での発表のみを伝えてもらいたい。これは契約義務であると心得たい。無論、報道の自由を主張して事実を捻じ曲げて報道をしてもらっても構わないが、その結果はどうなるか、ここに集まっている方々はよくご存じだろう……そうだね? 朝日、東日、大毎の諸君。君たちが良くご理解いただいていることだろう」


 記者会見に先立って満鉄総裁の安広伴一郎は報道契約書を上げ、署名欄を指差しながら釘を刺した。


 前年の海軍大臣発言報道事件による報道の自由問題が報道各社の報道姿勢に影響を与え、読売新聞を中心とする「あるがまま、何も足さず、何も引かない」報道と朝日・東日・大毎各新聞の「ジャーナリズムの本質」報道とが激しくぶつかる様になり1年経った。


 報道各社の抗争が激化、同時にラジオが普及したことで一般国民にも世情が伝わるようになり、報道の押し付けではない情報化社会が訪れていたのだ。


 だが、その結果、逆に相手を出し抜くためのネタ探しや特ダネ報道が散見されるようになり、場合によっては商取引にも重大な影響を与えることも出てきたのだ。


 そのため、司法省は法改正を断行し、若槻内閣成立直後の3月に施行し、記者会見もしくは取材時には必ず契約書を取り交わし、報道側の暴走を防ぐようにされたのである。これによって取材対象の保護を行うとともに不適切報道が行われないようにする配慮が法の下で保障されたのだ。


 だが……。


「契約書を取り交わさなかった我が社はいつも通りジャーナリズムの本質に従い自由報道をさせていただく」


 契約違反を申し立てられないために、そもそも契約取り交わしをしない報道各社も存在したのである。無論、例の三社である。


 彼らは契約を結んだ上での報道を行ったが、例の如く自由報道を行い、取材対象と取っ組み合いの法廷闘争に突入してしまい、それ以来契約拒否を宣言し自由取材を継続していたのである。


 この様な一部ならず者は存在しているが、たった一年足らずであるが、報道の責任を負わせるシステムが出来たことで、言論界は無責任な飛ばし慣例が激減したことは間違いない。


「諸君らが”自由報道”をして信用を失おうがかまわんが、これは外国通信社も同様に取り扱わせていただく。契約なくば、いずれ外国通信社と言えどこの日本での仕事が出来なくなるということだ。代わりに同業の通信社がシェアを伸ばすことになるだろうね」


 安広はそう言うと本題に入ると指示を出し、発表内容の説明準備を行わせる。


 演壇上に満州・朝鮮の巨大な詳細図が掲出され、少し離れた位置にいる外国通信社の特派員にも見やすくしてあった。


「さて、この地図は見てわかる通り、満州・朝鮮の地図だが……今回注目してもらいたいのは概ねこの地域である。 咸興、元山の周辺山岳であり、ここに有望なタングステン鉱床が確認できたのである。また、付近には金・銀・亜鉛・鉄の鉱床も発見されており、これの開発に我が満鉄は共同出資者を国内外問わず募集を行いたい。特に支那が輸出を制限してから高騰しておるタングステンは国家にとって、産業にとって必需品であり、代わりの供給先を求められておる……」


 安広は東條-有坂枢軸の青写真に従って開発パートナーの募集を公表したのである。


 元々北朝鮮は鉱物資源が豊富な土地であり、適切な開発とそれへの投資があれば国内で消費する戦略資源の一部を補うことが出来るのだ。特に鉄と石炭は豊富にあり、水力発電所の増設を行えば電源開発も行える。


 だが、残念ながら大日本帝国は乏しい国家予算であるため、本土どころか朝鮮の開発に十分な資金を投下出来ない。無論、企業規模も欧米に比べれば小さい。それは四大財閥と言えども例外ではない。


 よって、大規模開発するにはパートナーが必要なのだ。


「総裁、それは積極的に欧米資本を受け入れるということですか!」


「朝鮮総督府はそれを認めているのですか!」


 報道各社は矢の如き質問を繰り返す。


「無論、その通り。関係各所には根回し済み。そもそも、朝鮮総督府鉄道の運営は我が満鉄が行っているのであり、朝鮮の発展は我が満鉄の采配一つであり、我々が自社利益を上げるために行う一大プロジェクトである以上、本国商工省と言えど表立って反対は出来ない。そもそも、これで利益を得るのは我が大日本帝国であるのですから、反対する者がどこにいるのかと、逆に尋ねたい」


 安広の言い分に報道関係者は押し黙る。


「総裁、一つお尋ねする」


 デイリー・テレグラフ紙の記者が質問するが、これが後に場を盛り上げることになる。


「どうぞ」


「出資するとなれば、最初に名乗り出た者が大きく利益を得る……所謂先行者利益を得ることになると思うが、如何でしょうかな? それも交渉の取引材料になると考えてよいのでしょうかな?」


「無論であります……。出資額に応じた何らかの……そうですな、あなた方で言うところのインセンティブをと考えております」


「なるほど、では、我が本国でも出資を検討する者が名を連ねることでしょう。特にお国は債務支払いに定評がありますからな」


 安広はそこで片眼をつむりニヤリと笑みを浮かべる。


「無論、その定評にお応えせんと考えております」

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