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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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黒鉄に熱き血潮を<3>

皇紀2586年(1926年)10月10日 帝都東京 鉄道省


「有坂さん、燃費改善とおっしゃったか?」


 十河信二は早速、有坂総一郎の言葉に食いついた。


 蒸気機関車というシステムはその構造上、非常に簡易であり、技術水準が低くてもある程度は実用化出来るという特性がある。それがゆえに産業革命に遅れて参入した日本ですら蒸気機関を用いることであっという間に列強と同一水準の技術に追い付くことが出来たのだ。


 だが、この蒸気機関というものには決定的な欠陥がある。そう、エネルギー変換効率があまりにも低いのだ。


 蒸気機関は高くても4割程度のエネルギー変換効率だが、ディーゼル機関であれば5割以上、電気モーターであれば7割にも達する。


 そして、鉄道の分野に限ればさらにシビアとなる。


 電車・電気機関車の効率が概ね3割程度であるが、ディーゼル機関車・気動車は2割程度であり、蒸気機関車は1割にも満たない。


 ゆえに十河は従来の鉄道システムである蒸気機関車の燃費は鉄道事業に大きく圧し掛かる問題であると考えていたのである。


「成功すればという枕詞が付きますが、従来の石炭消費、真水消費を通常の5割~7割に抑えられる可能性があります……もし、それを採用出来れば石炭の消費が抑えられ、同時に機関区の統廃合や列車運行ダイヤに相当に影響を及ぼし、結果としてかなりの経費節減につながる……可能性があると……」


 総一郎は結果の責任までは負うつもりはないが、技術的な進歩があれば、それを外国へ売り込むことが出来ると考えていた。


 満州の様な荒涼とした平原では石炭は兎も角、真水の補給は常に問題となる。仮に鉄道省で本格採用にならずとも、海外領土や衛星国において運用すれば大きな効果があると考えていたのだ。


 総一郎の頭にあったのは南アフリカ国鉄の26形蒸気機関車である。レッドデビルとして有名なそれはガス化燃焼システム(GPCS)を採用して種車である25形蒸気機関車を遥かに凌駕する性能を得ていたのだ。


 実際に比較してみるとわかりやすいだろう。


 25形

 馬力:3000馬力

 速度:120km


 26形

 馬力:4500馬力

 速度:160km


 カタログスペックでもその性能差は歴然であるが、最大の違いはそこではない。


 石炭の消費は低速で3割、高速では6割削減され、水の消費は2割から4割削減された。運行当局側の見積もりでは26形は石炭を平均15%(最大24%)、水を平均21.5%(最大25%)、潤滑油を26%削減であったという。


 このような大幅な運行コストの低減は非常に魅力的であり、総一郎はその記憶から蒸気タービン駆動と同時にこれを実用できないかと考えて提案したのだ。


「今のところ、我が社で試験的に作らせているところですが、社内試験程度なので、あくまで理論的にはそれぐらい可能だろうという数値ですから、実際に実用化出来ればもう少し削減出来るかもしれません」


 十河だけでなく、小倉工場長、大井工場長なども総一郎の魅力的な話に満足そうな表情をして乗り気な表情であったが、鉄道省の技術者である朝倉希一は微妙な表情を浮かべる。


「有坂さん、非常に意欲的だとは思いますが……それは燃費向上と同時に整備性の悪化が同時に発生しませんかね?」


 総一郎が意図的に黙っていたことを朝倉は的確についてくる。


 朝倉は蒸気タービン駆動については疑義を挟まなかった。なぜならば、従来の走り装置よりも部品点数が少ないことで整備性は遥かに良くなると感じていたからだ。


 だが、このガス化燃焼システムについては試験製作段階ということを差し引いても従来とは異なるボイラー、燃焼室、煙管の構造となるのは何となく察しがついていたからだ。


「当初は恐らく従来よりも整備性が悪化するでしょうね……それについては否定出来ないかと……」


 総一郎は目を逸らしながらそう言う。


「ですが、蒸気機関車の性能はまだ限界を迎えておりません。電車や気動車の技術的未成熟さからも何れ取り組まねばならない事業に取り組むのは、我々鉄道マンの使命そのものであると断言致します!」


 十河は死んだ目をして窓の外を見つめるのであった。総一郎とその言葉に頷く幹部たちが彼をそうさせたのだ。


 そう、経理畑の十河にとっては総一郎は鉄道省の財政を滅茶苦茶にしていく疫病神にしか見えなかったのである。そして、その疫病神と一緒になって財政を傾ける幹部たちのそれに十河は退職願を出そうかと本気で考えてしまった一瞬であったのだ。

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