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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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黒鉄に熱き血潮を<2>

皇紀2586年(1926年)10月10日 帝都東京 鉄道省


「であれば、新方式で対応するしかないのではないか?」


 迷走していた議論に波紋を広げる発言をした有坂総一郎だった。


 総一郎は、史実に存在したが色々な事情によって量産されず、また高性能ながら活用しきれなかった機関車たちを思い出していたのだ。


 無論、その長所と短所も同時に……。


「有坂君、貴方は技術者ではないから簡単に言ってくれる……とまでは言わない……何か考えがあるのだろうと思うが、早々都合の良いものは浮かんだりはしないものだ」


 同じく黙って推移を見ていた後藤新平が口を挟む。


 彼や仙石貢は基本的に技術者や実務者たちの自由な議論を阻害しないために口を挟むつもりはなかったが、総一郎に対しては遠慮をする必要がないため遮ったのである。


「都合が良いかは兎も角、新方式という程でもないけれど、あまり活用されていない方式を2つばかり提案出来るというだけですがね……無論、ここにいる方々にとってはアレか……という反応があろうかとは思いますが」


 総一郎はそう言うと会議室の黒板に「タービン機関車」と書いた。


「タービン機関車……欧州で研究程度にいくつか試作されているが、何れも従来型の機関車に及ばないと判断されていたアレか……」


「ドイツでもいくつか製造されていると聞く、資料室に資料があったんじゃないか?」


 会議室はざわめく。


「今まで作られた機関車はあくまでも既存車両の改造に近いもので、新造車両というものではなかったと思います。ですので、最適化された機構ではないことが祟って成功したとは言い難い結果に結びついていたのではないかと考えられます」


 実際、史実でこの時期に製造された、もしくは戦後までの間に製造された蒸気タービン機関車は殆どが試作的なものであり、実用化出来た性能のものは皆無である。唯一の例外がペンシルバニア鉄道のS2形機関車である。


 S2形の開発の原点もやはり400回転の壁であり、これを突破するための方法として蒸気タービン機関を利用し、同時に複雑な走り装置を簡便な歯車による直接駆動方式を採用していることもあって整備は比較的簡易なものとなっている。


 そして最大の特徴にして究極の機関車と言われる所以はその性能にある。


 同時期(40年代)開発の強力な機関車と言えばビッグボーイで知られるユニオン・パシフィック鉄道の4000形が良い例だろう。


 そして我が大日本帝国、日本国において最強と呼ばれたC62形と比較してみよう。


 S2形

 全長:37.7m

 重量:468t

 動輪直径:1727mm

 出力:6900馬力

 最高速度:177km(少なくとも!実際は更に出せる余地がある)


 4000形

 全長:40.49m

 重量:540t

 動輪直径:1727mm

 出力:6290馬力

 最高速度:130km


 C62形

 全長:21.475m

 重量:145.17t

 動輪直径:1750mm

 出力:2163馬力

 最高速度:100km


 無論、C62形と比べるのは暴論であるとは思うが、標準軌機関車として知られる満鉄のパシナ形ですらカタログスペック上ではC62形より少し上という程度である。よって比較してもさほど意味がないのだ。


「タービン機関を用いる場合、400回転の壁に邪魔されることなく性能向上を見込めるのではありませんか? 消極的な理由で開発するのではなく、積極的な理由で新方式を導入するという考えの下、開発を提案したいと思います」


 総一郎はこの時、タービン機関の普及が進まなかった理由を敢えて言わなかった。


「確かに従来の走り装置では400回転の壁を超えることが出来ず、最高速度を求めると動輪直径を拡大するしか方法がなかったが……これならば整備も容易になる面でも考えてみる価値があるかもしれん」


 門司鉄道管理局長は総一郎の提案に賛意を示す。


 彼は旧九州鉄道出身のため、新しい技術の取入れに積極的なところがあった。ゆえに可能性があるならば試してみることに何のためらいもなかったのだ。


「いや、だが、どこの国も本格的に試作しているわけでもない、冒険過ぎるのではないか?」


 大宮工場長は逆に慎重論を展開するが、あくまでもポーズの様である。彼自身、試す価値はあると考えているようだが、名門中の名門である大宮工場を任される立場もあり、彼は軽々しく賛意を示せなかった。


 総一郎はここにいる者たちがおおよそ蒸気タービン機関車の試作へ傾きつつあることを感じていた。だが、一応の保険を掛けることも忘れてはいなかった。


「大宮工場長の仰る通り、冒険的な部分は否定出来ないのは確かです。本命視したい部分もありますが、堅実な形での機関車設計も同時に進めておくことも大事かと思います……島さん、あなたや朝倉さんが中心に従来型での究極の機関車開発を行っていただき、国内メーカーは今まで通りに堅実路線を選択していただこうかと……リスクのある選択肢は我が有坂が引き受けるということで如何でしょう?」


 総一郎はリスクを他の民間企業に負わせることなく、史実通りのC53形以後の機関車発展の道筋をつけておこうと考えた。


「有坂さん、美味しいところは独り占めですか?」


 島は笑って聞いてくる。


「あの機関車の時はあなたが名声を勝ち取ったでしょう? 今回は私が頂こうかと……それに鉄道省にも花を持たせる必要もあるでしょうからね」


 そう言うと総一郎は鉄道省の面々を見渡す。彼らは頷くと同時に笑い声をあげる。


「そして、もう一点。こちらは最高速度ではなく、燃費改善の方が主軸と言えるかもしれません」


 総一郎の言葉に十河が目を光らせた。

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