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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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黒鉄に熱き血潮を<1>

皇紀2586年(1926年)10月10日 帝都東京


 フィリピン・マニラで列強の談合会議が行われているこの日、帝都東京の鉄道省において青春をかけた男たちの熱き戦いが繰り広げられていた。


 ここに顔を揃えている人物はいずれも大日本帝国の鉄道界では著名な人物たちであり、史実においても毀誉褒貶バラエティー豊かな品揃えで有名な人物たちばかりである。


 まずは鉄道大臣である仙石貢。表向き、日本列島改造論の実行者であり、鉄道省の総責任者としてこの場を仕切る人物だ。


 次に帝都復興院総裁にして満鉄総裁などを歴任した後藤新平。列島改造計画を実行する以前からの改軌論者の筆頭格である。


 そして、車両製造の現場で活躍していたエンジニアの島安次郎。彼は満鉄を退職し、製造メーカーである汽車製造の社長職を今は務めている。彼も改軌論者であり、後藤の指示の下、改軌の準備を進めるも原内閣によって一度改軌論が封じられた際に失意、満鉄に渡るも、有坂総一郎からの誘いに乗ったことで再び改軌論者の中核として活動を開始、総一郎の発案した史実パシナ形の焼き直しを製造した。


 島の弟子的存在であるエンジニア、朝倉希一。彼は18900形(C51形)の設計を担当し、革命的な輸送力強化を実現したが、その成功によって逆に改軌論者を窮地に陥れてしまうが、島を介して紹介された総一郎と接触し、鉄道省内にくすぶる改軌論者を奮い立たせることに成功する。


 同じく鉄道省の官僚、十河信二。史実では新幹線の父とも称される彼だが、この世界では史実にあった疑獄事件での逮捕はなく、帝都復興院から鉄道省へ復帰し、経理畑を再び進んでいる。彼は列島改造計画において予算の差配で重きをなしている。


 そして、有坂総一郎。全ての黒幕にして鉄道省を私物化し、史実では潰えた改軌を実現し、同時に弾丸列車構想を15年も早く打ち出し実行させた。それだけでなく、従来の操車場方式による貨物取り扱いをコンテナ式に変更し、貨車単位からコンテナ単位による貨物列車の組成へ転換し、これによる物流改革を実行していた。これによって、従来の貨物列車組成は非効率となり、集配体制が著しく効率化されることとなった。


 そして、各鉄道管理局長、各工場長、幾人かの鉄道官僚と満鉄社員がここには集まっている。


 彼らの議題は一つである。


「島君、満鉄が先年開発した新型機関車を鉄道省が逆輸入するのはこの際よしとするが、それでも計画である150km運転には厳しいではないか……精々が120~130kmまでだろう……」


 東京鉄道管理局長は島に苦言を呈する。



 島は現実的な数字でありながら意欲的に設計した新型機関車の性能にケチを付けられたことに不満を感じたが技術的な面で応じる。


「当面はこれでも十分ではないかと考える。現行の18900形の最高速度が精々100kmであることを考えれば十分だろう……それ以上を望むならば……やはり動輪直径を拡大せねばならんよ」


「いや、それもあるが、軌道に掛かる軸重圧力も考えると直径の拡大は限界ではないだろうか、それにあまり拡大しても重心そのものが高くなりすぎる。それは転覆の危険性や曲線半径の都合を考えなくてはならん……」


 浜松工場長は島の返答に疑義を呈する。


 日本の鉄道の……いや、世界共通の問題が彼らの議論に影響しているのだ。蒸気機関車というレシプロ機関を使う動力方式では制約が存在しているのである。


 それが400回転の壁である。


 蒸気機関車の走り装置では毎分400回転前後が限界であると技術の発展によって判明したことで、より高速度を狙うためには動輪直径を拡大することで対応せざるを得なかったのである。


 具体的には、史実C62形を例に取ると以下の計算式が理論上の最高速度となる。


 1750(mm)×3.14(mm)×400(回転数)×60(秒数)=131.88(km)


 これは木曽川鉄橋でC62形17号機が達した最高速度129kmとほぼ等速であり、これが限界である証明ともいえる。


 さて、そうなると満鉄が開発した例の新型機関車はどうか?


 2000×3.14×400×60=150.72


 よって、理論上の最高速度は150kmとなる。無論、これにシリンダ容積、出力などが関係するため一概に一致するとは言い難いが、目安としてはこの前後ということになる。


 彼らは皆これを理解しているため、理論上の数値を超えるものを造りだす困難さを認識していたのだ。


「軌道に関しては、元々超重量級列車が走ることを前提としたもので設計施工しているから問題はないだろうが、あまり重心が高いというのはやはり問題ではないだろうか……」


 十河が口を挟む。


 彼は軌道改良の手間を省くために、建設の段階で将来を見越した余裕のある軌道設計を主張し、それによって工期が遅れようと構わないと関係部局を説得していたのだ。


 だが、それでも重心が高くなることには不安を隠せない。


「であれば、新方式で対応するしかないのではないか?」


 黙って事態の推移を見守っていた総一郎は迷走する議論に波紋を広げる発言を行った。

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