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火砲と戦車と機甲部隊

皇紀2582年(1922年)2月7日 ドイツ=ワイマール共和国 ベルリン


 駐独武官陸軍少佐東條英機はいつも通りに朝食後に朝刊を読んでいた。


――ふむ……前世とはどうやら異なる歩みを始めているようだな……。扶桑型戦艦2隻の追加廃棄とその代わりの空母4隻建造枠の確保など……。それに英国と米国の足並みが揃わないとは……。


 駐独武官である彼に入ってくる情報はそれなりにあるとは言えど、交渉の経過などに関しては新聞報道の方が余程早く正確だ。詳細を知ろうと思えば本国に問い合わてシベリア鉄道を経由するか船便になるからいずれにしても一ケ月程度はかかる。


 彼が転生してから約4ヶ月。


 彼も無為に過ごしていたわけではないが、駐在武官という立場と少佐という階級では大きく動くことは出来ない。彼の任務は軍事情報、兵器技術情報などの収集であり、彼はそこに活路を見出していた。


 前世において帝国陸軍は援護火力が列強各国に比べ劣っていた。それを痛感していた彼は適切な火砲の導入が必須であると考えていた。特に対戦車火砲の威力不足と量産不足が決定的であったと彼は自身のメモに優先項目として挙げていたのだ。


――少なくとも前世の機動九〇式野砲の大量生産は必須……。アレの採用にはフランスのシュナイダー社の提案があってはじめてであったな……。


 彼の記憶では既存の火砲で対戦車戦に用いるのに適当なものは九〇式野砲であった。そして、同年に制式化された九〇式五糎七対戦車砲は当初こそ十分な威力を有していたが、対戦車火砲としては不十分な能力であり、ノモンハンにおいて威力不足が露呈していることから、後の戦訓から考えて早期に対戦車砲として実用化を図りたいと考えていた。


――最終的に勝ったからよいものの、チャハル作戦において独立混成第一旅団をバラして運用したことも失敗であった。あの失敗がなければ陸軍の近代化は促進したであろう。また、その時点で問題点を把握しておればノモンハンに間に合ったやもしれぬ……。


 彼は自身が陸軍の軍政、軍令に明らかに影響を与え始めた時期の失敗を思い出した。後世に日本の機甲部隊が死んだ日と記憶されるチャハル作戦と独立混成第一旅団の解体。これに彼は大きく関与していた。


 彼が関東軍参謀長として関東軍を仕切っていた頃のことだ。皇紀2597年(1937年)、盧溝橋事件、第二次上海事変を経て支那事変が勃発。内蒙古の徳王らとの密約によって内蒙古の分離工作を行っていた関東軍は支那事変勃発による好機到来とチャハルへの侵攻を開始したのである。


 この時に投入されたのが通称東條兵団である。その中核戦力が独立混成第一旅団という日本初の機甲部隊、諸兵科連合部隊である。


 チャハル作戦以前にこの独立混成第一旅団は満州において外蒙古軍と幾度か戦火を交えていた。その際、外蒙古軍はソ連に支援されて編制した機械化部隊を投入するなどしていたが、関東軍は独立混成第一旅団の一部を派遣し追い払っている。


 八九式中戦車を集中配備し、歩兵戦力も自動車化したそれであったが、前世の彼と現場指揮官の用兵、戦術の考え方の相違のためにチャハル作戦に際しては適切な運用を行えず戦果を挙げられず評価は良くないものとなり、最終的には解体されてしまったのだ。


――あの時に適切に運用しておれば……。


 彼の用兵の拙さと陸軍中央の判断ミスはその後、ノモンハン、支那事変、勝ったけれど対戦車戦で苦戦したマレー電撃戦、完全に負け戦となったフィリピン防衛戦、そしてソ連参戦後の満州防衛戦と影響を与え続けたのである。


――いずれにせよ、今は火砲だ。優秀な火砲の採用なくして戦の準備など出来ぬ。

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