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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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結奈の敗北

皇紀2586年(1926年)6月20日 大英帝国 オックスフォード ブレナム宮殿


 ウィンストン・チャーチルの詰問に有坂夫妻は正体がバレているのではないかと危機感を覚える。


 彼の追及は実に的確であり、下手な言い訳はそのまま疑念を深める結果にしかならないと有坂結奈は感じていた。有坂総一郎は背中に脂汗が流れ落ち、自分があまりにも派手に歴史の表舞台に関与し続けていたという事実に今更ながら気付かされてしまったのだ。


「閣下、我が有坂重工業は確かに自動小銃と量産型トラックを帝国陸軍に提供し、それが最終的にはシベリア出兵を勝利に導きました。しかし、それは自動小銃とトラックを上手く活用した帝国陸軍の戦術によるもので……」


「果たしてそうかな?」


 チャーチルは結奈の言葉を遮るように言う。


「シベリア出兵に関しては駐日大使館からの情報や駐在武官から上がってきた情報を精査したが、御国の陸軍は非常に苦戦をしていたというではないか。それが、1個師団に新兵器を投入し、それによって戦況が劇的に変化し、浸透してくる相手を籠城して迎え撃ち、弱体化したところを増産した自動小銃と国内からかき集めた機関銃を集中運用して戦線を押し戻したと聞いている……そしてそれを可能にしたのは短期間に大量の自動小銃を前線に届けた有坂重工業の生産力にあるとな」


 チャーチルの眼は鋭く瞳の奥には逃がさないという意思が宿っているかのようだった。


「私には違和感しかないのだよ。大日本帝国という国家は一貫した政策や国策が普段はないはずであるのに、20年代に入ってから後、急にどこかに一本筋の通った動きがみられるようになったのでね……そして、その裏には何故か有坂の文字がある。これは偶然ではないのではないかね?」


 チャーチルの言う通り、総一郎は一貫して大日本帝国の問題点を是正すべく動いている。シベリア出兵では日本海の内海化という戦略的な面で、そして自動小銃や機関短銃の投入という戦術の変化を、国内インフラでは貧弱な鉄道輸送力、道路網の整備、トラック増産による物流の機械化、工業製品の品質向上と規格統一、火薬量産のためのアンモニア事業……。


 多くの問題で率先して動いている。それも総一郎の性格がゆえに何でもかんでも自分が関与する形で……ダミー企業やペーパー企業による偽装などもせずに……その結果、チャーチルの疑念に結びついたのだ。


「閣下、一言申し上げますが……我が夫は自分で何でも関与したがる性格であり、しかも、国家への忠誠心や義務感があるため、尽くすと決めたら徹底的に行う人間なのですわ。そんな人間が、大震災に直面して先頭に立って国民に奉仕しないわけがないでしょう? また、シベリア出兵であれば、国家が勝利するために奉仕するのも当然と動いておりました……。そういう表裏のない行動の結果が、閣下の疑念を産み出しただけなのです」


 結奈は総一郎の性格を美化した上で強調し、結果と結びつけるように答える。


 実際、総一郎の行動にそういう意味で嘘はない。国家のため、被災者のため、総一郎は赤字だろうが何だろうが徹底して立ち向かった。その結果、敵も多く作っており、国内では政商、君側の奸と侮蔑されることもある。特に政友本党等とは政治的な敵対関係にある。


「まぁ、確かに君の言う通り、彼の行動には一貫して国家への熱い想いがあるのは認めざるを得んな……だが、それがゆえに私は警戒しているのだ。つまりだ……今回、私に提供した資料は、我が大英帝国を利用して御国に利益をもたらすための一種の謀略ではないのかとね。そして、それを厭わないであろうと確信があるからだ……いや、今回結奈君の言葉でそれはより裏付けられたと言っても良いだろう」


 結奈はこの時「しまった」という表情になった。


 実際に、大英帝国は支那大陸への介入を政策としてほぼ確定させている。しかも、超タカ派にして帝国主義者で愛国者を自称し、他者もこれを認めるチャーチルを介して国策を動かしたようなものだ。


 であれば、チャーチルも一流の政治家である。自分をダシに使われてそのままでいる筈がない。


「わかりましたわ……閣下の言う通り、我々は大英帝国の国策を動かしたことになります……そして、それがゆえに今帰国したら大英帝国にとって不都合な存在となり得ると……」


「理解が早くて助かる……なに、今回の北伐の状況に変化があって御国とのチャンネルが必要になればその時は帰国いただくつもりでいる。その際は我がロイヤルネイビーで東京まで送らせていただくと約束しよう」


 チャーチルは満額回答を得たとばかりに笑顔で部屋を退出する。


「旦那様……あなた、やりすぎよ……そのおかげで抑留されるなんて思わなかったわ」

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