正体がバレた?
皇紀2586年6月20日 大英帝国 オックスフォード ブレナム宮殿
ウィンストン・チャーチルの事実上の軟禁宣言に有坂総一郎は衝撃を受けるが、有坂結奈はそうでもない様子であった。
「道理であの手この手で出国を引き留められていたわけですね……出国しようとしていたのに色々な企業や官僚の方々がお出でになるから不思議に思っておりましたが……」
結奈の言葉に総一郎は2度目の衝撃を受ける。
「結奈、変だと思っていたのか?」
「……気付きもしなかったんですの? 呆れましたわ」
総一郎はここ数日の来客の増加とパーティーへの招待に違和感すら抱いていなかったのだ。ただ、純粋にビジネスの機会が転がっていると喜んでいたのだ。
「なんとおめでたいこと……」
結奈は総一郎にそう告げるとチャーチルに向き直る。
「閣下は、我々に何をお望みですか? 我々はただの企業家でしかありませんわ。たまたま、我々のビジネス上取得した情報が御国に、大英帝国にとって有益だっただけではありませんこと?」
結奈は英語力では全く役に立たない夫を放置することにした。仮に総一郎が何か喋っても譲歩を引き出すことはないであろうし、彼は余りにも政治に深入りし過ぎているため下手なことを喋らせるわけにはいかなかった。
チャーチルは二人についてくるように手招きした。
三人は連れ立って宮殿内の廊下を移動する。とある部屋に案内され入室するとチャーチルは壁の人物画を指差した。
「彼が初代マールバラ公爵ジョン・チャーチルであり、このブレナム宮殿の創始者だ。彼は我がスペンサー=チャーチル家の礎になった人物であり、私が尊敬する人物である」
チャーチルは二人に腰かける様に促す。
「君たちに彼の肖像を見せたのは理由があるのだが……今の君たちにはわかるまいな……いずれこの肖像を見せた意味を教えるべき時が来るかもしれん。ただ、私はそうなってくれないと良いなと正直なところは思っている」
チャーチルは初代マールバラ公爵の肖像をもう一度眺め見てから二人の方へ向き直る。
「君たちの資料を見てからすぐに私はドイツの動きの調査とは別に君たち有坂グループのことを調べさせた。すると面白いことがいくつも報告が上がってきたのだよ……それは私が言葉にする必要はあるまい? 君たち自身が良く知っていることであろうからな」
結奈はポーカーフェイスで応じているが、総一郎はやらかしたという表情が見え隠れしている。普段はイケイケで我が道を行くタイプであるが、攻められる側になると途端に弱くなるそれであった。
総一郎の表情に結奈は呆れながらもフォローし、ぼろを出させないことを優先することにした。なんだかんだ言っても彼を支えることが出来るのは自分しかいないと考えている彼女である。
「閣下、どのようにお考えか、我々にはわかりませんが、それは我が夫の国家への忠誠心によるもので、国家のために今この時に何をすべきかを考えた結果が閣下の御存知のものになっているだけ……」
「ほぅ、シベリア出兵での苦境に新兵器投入、あの大地震での簡易住居の大量供給、日本陸軍との関係、日本列島改造という鉄道省の一大プロジェクト……あまりにも手際が良いのではないのかね?」
チャーチルは揺さぶりをかけてくる。
結果だけ見れば確かに有坂家の関与が至る所に見えてくる。しかも、タイミングを見計らったかのように……。
「一企業家が扱うにはあまりにも利益が薄いが国益だけ見れば大きい部分に都合よく関与し過ぎであると思わないか? 私には偶然には見えないのだがね?」
少し書き換えた。
元の描写だと作者の意図したよりも直接的な部分があって今後の作品展開上不都合であるためトーンを少し下げた形で表現することにした。




