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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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幽閉

皇紀2586年(1926年)6月20日 大英帝国 オックスフォード ブレナム宮殿


 ロンドン株式市場は東洋艦隊の極東への展開によって特需景気を期待した軍需産業を中心とする株価高騰によって活況呈していた。


 その仕掛人はイングランド中西部オックスフォードにあるブレナム宮殿の一室にいた。


 ブレナム宮殿……現代において世界遺産に登録される宮殿であり、王族の所有以外で貴族が所有する唯一の宮殿であり、東京ドーム173倍にも及ぶ広大な敷地を有するこの宮殿はマールバラ公爵スペンサー=チャーチル家の所有である。時の大蔵大臣を務めるウィンストン・チャーチルはこの家で生まれ、時折訪れるのである。


 彼の招きで見慣れぬ東洋人は緊張した様子でソファに腰を掛けているが、場違い感甚だしいことこの上ない。そのすぐ隣で優雅に紅茶を飲んでいる人物の方が余程肝が据わっているとさえ思える。


「待たせたな……そんなに硬くならんでくれ、君の持ち込んだ情報は大いに役立った。感謝を申し上げたいくらいだ」


 チャーチルはそう言って労いの言葉を掛ける。


「チャーチル卿のお役に立ちましたなら幸いです」


 緊張でガチガチになっている……いや、この宮殿の空気に呑まれてしまっているだけの人物、有坂総一郎はそう応じるが、表情が硬すぎたこともありチャーチルは苦笑いを浮かべる。


 大英帝国の政策を後押しした情報をもたらしたのは他でもない。総一郎であった。


 元々、総一郎は中島知久平から預かったものを出向している中島社員たちに手渡すためブリストル社に立ち寄ったのであった。だが、訪問したその日にチャーチルがお忍びでブリストル社に訪問していたのである。ブリストル社の幹部社員から是非にと紹介され、二人(+有坂結奈)は会談を持ったのであった。


 この際に、元々使うかどうかは別としても持ち合わせていた資料とドイツ国内で仕入れた情報をチャーチルに開示し、その一部を渡したのである。


「ミスターアリサカ、この通りロンドン市場は活況を呈しておる。君もどうやら上手く売り抜けた様だな、我が情報部が油断ならない奴だと褒めていたぞ」


 総一郎は微妙な表情を浮かべる。尾行されたり監視されている様な気配は感じていたが、こうも悪びれずに言われると文句の一つも言えない。


「なに、安心したまえ、我々は危害を加えるつもりはない。ただ、大人しくしていて欲しいだけだ。なにしろ、先日のダイムラー・ベンツ・アリサカの様な買収劇を演じられても困るんでな。特にブリストル社など貴国の中島飛行機と協業しておるからな。我が国でも優秀な発動機を造る企業を乗っ取られてはかなわん」


 お構いなしに歯に衣着せぬ物言いで機嫌良さそうなチャーチルである。


 総一郎の横で優雅に紅茶を飲んでいた結奈はこのタイミングで口を開く。


「閣下、大層ご機嫌の御様子でなによりですわ。我が夫も、閣下のお役に立て、そして我が祖国に利益をもたらすことが出来ました」


「全く結構なことだ」


 満足そうな表情で葉巻を吸うチャーチルだが、その瞳は先程までと違い鋭さがあった。


「閣下もそろそろ本題に入りたいのではありませんか? 元々、閣下はお世辞がお上手ではないでしょう。閣下は、我が夫に何をお望みですか?」


 結奈は自分たちがここに呼び出された理由、そして予定よりも英国に留め置かれている理由を質した。


 チャーチルは立ち上がると窓際に進むと葉巻が短くなるまで黙って外を見つめる。


 彼の視線の先には青々しい庭園の芝が広がっている。


「君たちには悪いのだが、暫く帰国することを認めるわけにはいかぬ。我が大英帝国の国策を動かしたのだ、今度は大日本帝国の国策を左右されては我々にとって非常に不都合なのでね……暫くはこの宮殿で過ごしていただく……その間、君たちの世話は我が公爵家が面倒を見ることを約束しよう」

ブレナム宮殿はウィンストン・チャーチル卿の生家であるけれど、彼の所有ではなく、彼自身は爵位を持たない分家の出だった。ただし、本家であるマールバラ公爵の従兄弟であるから近親である。

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