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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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悪夢を見ないための方法

皇紀2586年(1926年)6月1日 大英帝国 ロンドン ウェストミンスター


「首相、外相はああ言っているが、私はそうは思わない。何故か? 蒋介石とドイツの間に密約があるからだよ。この密約が実行されるということは欧州大戦の戦後の枠組みやロカルノ条約による枠組みを覆しかねん。その時点で極東への影響力に重大な危機が迫っていると断言しよう」


 閣議室の空気がガラッと変わる。


 大蔵大臣ウィンストン・チャーチルの切り札が閣僚たちに衝撃を与えた証拠だ。


 彼ら誰一人とて蒋介石とドイツの密約を知る者はいなかった。そう、外務大臣であるオースティン・チェンバレンですら……。


「私はとある筋から情報を受け取ったのだが、彼はとても興味深いことを言っていたのだよ。2月にドイツの退役軍人が大挙して広州に到着したと。これを私は独自に調べてみたのだが……彼らは軍事顧問団としてチャイナに渡っている。そして、表向きは私的に雇われているという形だが、実質的にはドイツ国家が送り出したも同然だ。その際に大量の銃火器もドイツから発送されている」


 チャーチルはそこまで言って区切る。彼は閣僚一人一人を見回し、顔色を窺う。


「蔵相、それだけでは密約があるとは言えぬだろう。チャイナ……国民党はソ連から軍事顧問団を受け入れておるし、北京政府は日本の影響力が大きい上に、我々も繋ぎ要員を出しているではないか」


 チェンバレンは控えめながらも反発を示す。


 この時期、支那大陸の何れの勢力も外国とのつながりを有している。北京政府は日英米と関係を有し、南京国民党はソ連と繋がりがある。また、各地の軍閥も公式、私的問わず顧問団や数名単位の顧問を雇っている。


 それを持って密約と言うにはお粗末だという認識であり、閣僚らも同様にチェンバレンの言葉に頷く。


「では、ドイツ企業が最近になって旧権益の山東半島に再度進出し始めているのはどう説明するのかね? また、別の筋からの情報だが、蒋介石は広州湾に人工島を造成し、そこにドイツ企業を誘致しているという。これはドイツに租界を与えている様なものだが、どう考えるかね?」


 チャーチルの具体的な情報によって皆押し黙る。チェンバレンですらその情報にはドイツへの疑念を抱かざるを得なかった。


 実際にドイツが租界を得ても所詮は権益の回復であったり、支那大陸でのビジネスの足掛かりでしかないが、これが仮に租借地であれば話は変わる。


 北伐がなった暁に、時期を置いて山東半島が租借地としてドイツに譲渡された場合、太平洋航路の安全に重大な危機が生じるのは欧州大戦で経験済みである。


 そして、その時は日英同盟があったことで日本に対処させることが出来たが、現在は日英同盟は破棄され安全保障上の保険がない。


 仮に日独接近した場合、極東に活動拠点があるドイツを日本が支援することが出来、欧州大戦で活躍したUボートが大挙して太平洋やインド洋に出没したら……。


 閣僚らの表情は目まぐるしく変わる。


「決まりましたな?」


 チャーチルの促しの言葉にチェンバレンですら頷かずにはいられなかった。


 欧州大戦での無制限潜水艦戦の悪夢を極東で再現させるわけにはいかない。出来得るならば、その芽を摘むべきだ……と皆一様にそう考えていた。


「首相、閣僚は皆揃って腹が決まった様ですが、あなたはどうするおつもりですかな?」


 いつになく丁重な言い回しで決断を促すチャーチルであった。

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