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演習

皇紀2582年(1922年)1月18日 帝都東京


 年末から試製新装備として自動小銃と機関短銃の試験配備が行われ、これを受け取った第8師団は習熟訓練を行っていた。


 第8師団は4月に出兵中の第9師団への増援として派遣される予定である。しかし、陸軍中央は装備を受け取った第8師団によって評価実験を実戦において行いたいと考えていたため、その出兵は2ヶ月早められ2月にも行われる見通しとなった。


 第8師団の派兵部隊は帝都近郊に集結し、有坂重工業から届けられる豊富な弾薬によって扱いに慣れ始めていた。


 この頃までは彼らは何の不安も疑問も感じず習熟訓練に明け暮れ、その性能による打撃力の向上に士気が上がっていたのである。


 第8師団長小野寺重太郎中将は技術本部長宮田太郎中将と演習の光景を見ながら話していた。


「宮田君、技本は自動小銃の研究に取り掛かったばかりだと聞いていたが、よくこれだけ揃えられたな……三八式歩兵銃ですら揃えるのに苦労しているのが砲兵工廠だったと思っていたが……」


「これは砲兵工廠で造ったものではなく、有坂重工業からの提供品……陸軍制式でもなければ技本の研究成果でもない……」


「なんだと!?」


「有坂という新興財閥を率いる男と秋にあったのだが、そやつがこれからは物量戦だと主張してな……それには自動小銃と短機関銃の歩兵連隊への配備が必要だと……」


「最近、若手が総力戦だの国家総動員だのと熱を上げているが、そういう感じの輩か?」


 小野寺は警戒するように尋ねた。


「いや……そうだな……連中の主張に近いことは確かなのだが、根本的に何か違う……そう感じたな」


「ふむ……しかし、自動小銃は兎も角、機関短銃は非常に効果が大きいな……あの様にバリバリ撃ちまくれるならば陣地突破にも役立とう……」


「技本でも携行可能な軽機関銃を開発中だが、これも年内には量産化出来るだろう……」


「いや、待てよ……では、軽機関銃と機関短銃ではその役割が似てないか?」


 小野寺は疑問を感じた。


 軽機関銃はそもそも半固定武装である重機関銃とは違い、進出する歩兵部隊と同行援護するための携行援護火器として開発されている。


 機関短銃も似た様な火器である。ただ、機関短銃は援護火力ではなく、主火力として用いるものなのだ。


「……確かに似ているな……だが、携行性は機関短銃の方が優れているし、塹壕戦や市街地戦では取り回しが良いから圧倒的優位だろう?」


「……確かにな……」


 彼らは欧州大戦に直接かかわったわけではないためその有用性や戦術に対してイマイチ理解が足りてはいなかった。


 軽機関銃も機関短銃も欧州大戦によって方向性が確立された存在だ。彼らも戦訓としては把握しているが、経験としての理解が出来ていない。


 そもそも、日本が直面している戦場では塹壕もなければ市街地戦もほとんど想定されていない。主戦場はあくまで満蒙平原であり、シベリアの森林地帯だ。


 日露戦争や青島要塞攻略などは経験したが、本格的な塹壕戦など経験していないのだ。


「しかし、無駄撃ちが多いな……」


「使い方を考えないといかんかもしれんね……」


 彼らはまだそのあるべき真の力の一端しか見えていなかった……そしてデメリットも……。

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