介入者
皇紀2581年10月 帝都東京
欧州大戦とその後に続く好景気がついに崩壊した。そして、戦後恐慌が始まった。とは言うものの、その実、不景気になった結果の大恐慌というものではない。
アメリカ合衆国の好景気に牽引された帝国の経済は実態以上のバブル景気によって活況を呈していた。しかし、皇紀2580年3月に戦中からの過剰生産が原因で突如株価が大暴落を起こしたのである。これは元々過剰生産気味であった日米に追い打ちをかけるように戦後復興が進んだ欧州列強の市場参入によるものであった。
特に紡績、鉱山、造船など戦時特需によって成長した新興財閥や中小企業は品質の高い欧州企業との競合と財務基盤の弱さからあっという間に没落していった。しかし、それとは逆に大財閥手堅い商売を行い利益を確保、新興勢力の没落とともにその地位を不動のものとしたのである。
その悪夢の戦後恐慌真っただ中の帝都、東京駅へ降り立った。
――今度はこの時代に飛ばされるなんて思わなかったな……。
彼の名は有坂総一郎。別の世界軸において江戸時代中期に飛ばされて好き勝手しまくっていた人物だ。どうやら、彼はあの時代で生を終えて飛ばされたらしい。
――この世界に降り立ってから2年、前世の記憶……いや前々世か……を頼りに株式取引をやって貯め込んだ資産と投げ売りされている企業の買収でなんとかこの世界に介入出来る基盤は出来た……。
――あとは……味方につける存在を選定することだが……。
彼は東京駅のホーム上で思案していたが、突然の悪寒に言い知れぬ恐怖を感じたのであった。
――これは……いや、アイツなら有り得る……きっと近くにいる……。
心地よい秋風が吹きこむホームを彼はぐるっと見渡した。居る筈がないものを探すように……。
「見つけましたわ!総一郎!」
「……キット、ヒトチガイデスヨ、オジョーサン」
「下手な片言はおやめになって。似合いませんわ」
彼は再び始まる彼女とのこの世界での物語に諦めを感じて言った。
「どこまで付いてくる気なんだ?」
「あら気付かないのかしら?私には貴方がどこにいるのか、すぐにわかる高性能レーダーが備わっていましてよ」
「……冗談抜きでそうらしいな……はぁ、仕方ない……新しい屋敷に行くか……」
彼は彼女の手を取り、改札を抜け丸の内のタクシー乗り場へ向かった。
彼女の名は神庭結奈、改姓して有坂結奈……。またこのコンビがこの時代へ介入していくのであった。