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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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カール・ベンツ

皇紀2586年(1926年)4月9日 ドイツ=ワイマール共和国 ベルリン


 八木・宇田アンテナの開発実用化の目処が付き、今後は改良発展を目指す段階となったことで有坂総一郎は海外に再び目を向けた。


 2年前に訪独した折に纏まったディーゼル発動機とトラクター・トラックの国内代理販売とライセンス生産の契約期間更新という時期でもあり、総一郎は再度訪独することを決意、愛妻結奈とともに渡欧した。


 彼の狙いはただ既得権益の更新だけではなかった。


 この時期、DMG社とベンツ・シー社は経営に行き詰まり財政状態は悪化の一途を辿り、競合する2社は24年の時点で経営統合に合意し経営協定を締結、統合へ向けて歩調を合わせ始めていた。


 史実では26年6月28日に合併し、ダイムラー・ベンツとして新会社を設立したが、総一郎はここに付け入る隙があると考え資本提携を持ち掛けようと企んでいたのである。


「カール・ベンツ氏ですね? 2年前はお会いすることが出来ませんでしたが、この度は御会い出来る機会を作って頂き感謝致します」


 齢80になる矍鑠とした老人が姿を見せると総一郎は進み出て握手を求める。


「話は聞いておるよ。東洋の若い野心家だと……鉄人(ゲーリング)を秘かに支援しているとも聞いておる。私は毛嫌いしておるが、アメリカのヘンリー・フォードとも懇意だそうだね」


 その鋭い眼光は総一郎を射抜く。


 彼の眼差しに総一郎は一瞬たじろぐが気圧されてなるものかと踏ん張る。


「我が帝国の発展のためには良いものは良いと受け入れ、そしてそれを我々に合った形でより良い形へ変えていくつもりです。フォードのやり方が正しいとも、あなた方のやり方が正しいとも断じるわけにはいきません。我が国は国力が貧弱なのですから、いいとこどりをしなければ欧米列強と肩を並べることは出来ませんよ」


「なるほど……で、君は今回は何を得るためにここに来たのかね?」


 ベンツはどうやら総一郎が手を出したことをそれなりに研究していた様だ。一筋縄ではいかぬと彼の眼は語っている。


「帝国の繁栄のための最善の策を実行するため……今はこれでは駄目ですか?」


「今は……か。なるほど、老い先短いこの私には明かすつもりはないと見える……大方、契約更新と見せ掛けてその腹にあるのはDMGとベンツ・シーの合併に一枚噛んで、君が言うところのいいとこどりを狙っておるのだろう? 真の狙いはカネではなく、我々の持つ技術や今後の技術開発であろう。違うかね?」


 見破られていることは承知の上であった。


 だが、ベンツはそれを嫌悪の感情で否定するような真似はしないようである。


「君が欲しいものは、今はまだここにはない。だが、近い将来我々が作り出すと確信しておるのではないか? だからこそ、今の段階で接触してきているのだろう……よいだろう……我々も今は苦しいのは事実だ。君が手を差し伸べるのであれば、その手を握ろうじゃないか」


「……老公はそれで良いのですか? 私はあなた方を利用するためにカネを出そうと企んでおるのですよ?」


 総一郎はあっけなく手を結ぶと申し出たベンツに驚き、逆に尋ねた。


「ふはははは……利用する相手の心配をするのか。面白い小僧だ。なに、このままではジリ貧だ。であるなら、東洋人の口車に乗ったところでさして違いなどあるまい。いざとなれば、株式を買い戻せばよいだけのことだ」

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