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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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広州事変の顛末

皇紀2586年(1926年)1月9日 広州


 年末に発生した蒋介石抹殺を狙った広州事変は、軍官学校を掌握した蒋による反撃で広州一帯は制圧され、彼は国民政府南海戒厳司令を名乗り上海にある国民党中央に反旗を翻した。


 蒋が反旗を翻したこの日、共産党員である周恩来は自身の身の保全を図る意図から降伏帰順するため蒋に面会を求めていた。


 周恩来……彼の生家は官僚であり、知識階層に属していた。辛亥革命で革命思想に触れると、日本への留学、欧州への留学を経て、共産主義へ傾倒し、共産党へ入党し、孫文による第一次国共合作によって帰国、蒋介石が校長を務める軍官学校に赴任する。


 史実では中山艦事件の後に上海へ移転し、上海市民政府を樹立するが、北伐を開始した蒋によって破られ処刑されそうになるが脱出し、欧州時代の旧知の仲である朱徳とともに南昌蜂起を画策している。


 だが、この世界での周は史実とは異なり、共産化した国民党中央の蒋介石抹殺への行動とそれへの蒋の素早い対応、広州周辺における蒋の地位確立という現状を見ると逃亡より帰順を選んだのだ。


「校長……お久しぶりです」


 蒋が司令部を置く軍官学校へ出頭した周は校長室に連行されると親しげな様子で蒋に声を掛けた。


「共産主義者の貴様が何の用だ? 命乞いか?」


 敢えて突き放すように言う蒋。


 蒋にとって、この軍官学校で共に働いた仲であるとは言えど、自分の命を狙った共犯者であるという意識が周を許せず冷たい言葉を吐かせた。


「言い訳の様に聞こえると思いますが……私は先の事件を望んでなどいなかったのです。無論、私はあのような騙し討ちみたいな真似を扇動などしておりませんし、外患誘致に相当することなどしていないのです」


「ほぅ? では、誰が唆したというのだ? あれらは共産党とその手先が実行したものだ。そして、この軍官学校の内部の人間が情報を漏らしていたからこそ闇討ちに近い強襲を可能にしたのではないのか?」


 蒋の視線は鋭い。


 いつでもこの場で処刑できるのだと彼の視線は物語っている。


「校長……南京の連中では何れ内部分裂を起こし軍閥同様に争う様になるでしょう。同じ共産党に属しているものであるとは言え、彼らには人を導く器がない。それは人民の代表であるという自覚ではなく、かつて滅んだ皇帝と同じことを繰り返しているに過ぎません」


「ふむ……そうだな。連中のやっていることは西太后のそれと同じだな。連中は義和団事変や戊戌の政変を繰り返しておるだけだな」


 蒋の固く閉じた心は少しだけ周に開かれようとしていた。


 周の言葉は間違いなく今の支那大陸の置かれた状況を説いていた。そして蒋も自身の見てきた過去の認識と同じものを周が見ていることで無意識に視線を緩めたのだ。


「であれば、私がなすべきことは革命思想を共有していながら、権力を手に入れて堕落した者たちではなく、権力を握り、なおかつ同志に恵まれ、人望のある方と共に手を携えることだと……」


「そうか……わかった……周よ、貴様の命は暫くこの私が預かる……ここで処断しないことを感謝するのだな……待遇は少し悪いが、営倉で沙汰を待つが良い」


 蒋はそう言うと側近に周を連行するように指示する。


「校長、あなたの恩情に感謝します」


 校長室の扉の前で振り返った周は蒋に頭を下げるとそう言い出て行く。


「助けるとは言っていないのだがな……」


 そう呟いた蒋の口元は少し緩んでいた。

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