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賽は投げられた

皇紀2582年(1922年)1月8日 アメリカ合衆国 ワシントンDC


 日本が踏み絵を強いたことでアメリカ国内世論、合衆国政府、合衆国海軍では激しい論争が繰り広げられることとなった。


 ワシントンタイムズは日本の甲案(陸奥保有、扶桑・山城廃艦、戦艦8隻体制)を絶賛し、ニューヨークタイムズは乙案(英米の16インチ搭載艦建造枠の認可)を支持し、激しく世論がぶつかり合っていた。


 議事堂前やホワイトハウス前ではそれぞれの支持者が連日デモ行進を行い、そこに平和団体もが飛び入り三つ巴の状態となっていた。


 国民世論としては甲案支持が過半数を越えてはいたが、財界、退役軍人の多数派は乙案支持で情勢は流動的であり、日によっては支持率が逆転するときもあった。


 米海軍内部では16インチ搭載艦が建造出来、対日優位が担保されるという理由から乙案受け入れを国務省へ強く要求し、あろうことか、全権団の一員であるフランクリン・ルーズベルト海軍次官までが賛同する始末であった。


「このままでは国内世論が分断され、会議どころではなくなる……」


「日本の二つの提案は実に巧妙だ……日本にとって何れをとっても実利は変わらない。しかし、甲案を取れば海軍が黙ってはおらぬし、乙案を取れば国民感情を逆撫でし国際大義を失う」


 国務長官ヒューズは頭を抱えていた。


 ヒューズの言葉に海軍次官ルーズベルトはいい加減にしろと憮然として言った。


「元はと言えば、あなたが仕組んだことではないか? それを逆手に取られているのだ。それはあなたのミスだ。むしろ、日本の提案、乙案を受け入れて優位に立つべきだ。海軍は16インチ搭載艦を必要としている……そもそも、海軍はダニエルズ・プランの廃棄に不満だったのだ」


「だが、それでは会議の大義が……外交で日本を抑え込むという目論見が……」


「それで失敗したのは誰だったかね?」


 ルーズベルトはヒューズを睨みつけた。


 元々、海軍はヒューズの主導する計画に反対だった。ただでさえ遅れているダニエルズ・プランをお蔵入りさせられ、しかも、日本の陸奥保有はほぼ確定となった現状で甲案の受け入れなどしてはさらに保有する戦艦を削減しなくてはならない。それが旧式戦艦であろうと、新型戦艦を手に入れることが出来ないのであれば貴重な戦力である。それを手放せとヒューズは言っているのだから海軍が頑なになるのは道理である。


 黙りこくったヒューズにルーズベルトは続けて言った。


「名よりも実を取るべきではないのか、国務長官?」


「それでは、フランスとイタリアという潜在脅威に新たな力を与えることになる……要らぬ火種を蒔くことになるのだぞ?」


「では、太平洋の脅威を放置してよいと?」


 彼らは堂々巡りを始めた。


 アメリカは大陸国家であるがゆえに東海岸、西海岸という二つの正面玄関がある。


 東海岸はイギリスという実質的な同盟国が存在することで相互補完が可能だが、西海岸はそれがない。太平洋を横断しようとすれば日本という障壁にぶつかる。しかし、そこには相互補完出来る相手がいないのだ。つまり、独力で日本とは対峙しなければならない。それも大西洋などとは比べ物にならない広さの大洋で……。


「太平洋の守りも大事だが、だからと言って、大西洋に要らぬ波風を立てるなど外交的にはナンセンスだ」


「イタリアなど所詮は沿岸警備隊モドキに過ぎん。フランスとて連合国サイドだ。脅威とはなるまい。問題は広すぎる太平洋への手当てだ。いくら日本が経済的にはまだまだ新興国レベルであっても、海軍力を侮るわけにはいかない」


 彼らの対立は決定的だった。

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