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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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対支那経済支配戦略構想<3>

皇紀2586年(1926年)1月5日 帝都東京 有坂邸


 東條英機大佐の岸信介起用の提案で有坂総一郎は動揺したが、東條のあっけらかんとした表情に反論反対するべき理由を失い、それを受け入れることとした。


「しかし、東條さん……敵も味方もバサバサ斬り殺すと言われた貴方とは思えない言葉ですね……」


「そりゃあ、私も2度目の人生となれば少しは丸くもなるさ。通算で言えば100歳を超えているのだからな」


「まぁ、確かに……」


 何とも言えない表情で納得する総一郎であるが、それもまた人生の教訓なんだろうと飲み込む。


「あぁ、話が逸れたな……本題に戻るが、貴様が気になっているところを順に話せ。貴様の言う通り、確かに欧米の軍事顧問団程度は大したことはないだろうな……前世でもゼークトラインはあっという間に陥落させたのだからな」


「ええ、ですので、多少の違いがあろうと軍事顧問団と多少の欧州製兵器の導入は気にする必要がない問題です……が、経済は違います」


 総一郎は支那大陸の地図を用意するために立ち上がり、本棚から取り出しそれを応接セットに広げる。


「いいですか、東條さん、ここ満州では、経済の中心地はいくつも分かれていて、基本的に独立した市場が複数存在している状態であり、それの全てが地方軍閥と密接に関係しています」


「あぁ、そうだな。張作霖の奉天軍閥も満州の代表者面をしているが、実態は軍閥の連合体でしかない。そして連中の統治出来ている範囲は基本的には奉天とその周辺だけだ」


「そうです。つまり、ヤクザや任侠とそれほど違いがないのです。その規模がデカいだけで。そして統治下という名のシマからのシノギで彼らはその軍事力を維持しているわけです。そしてそのシノギを上納するのが官銀号(中央銀行機能付きの銀行)なのです」


「そうだな。だからこそ、満州事変で関東軍が真っ先に行ったのは各省の官銀号を接収し、経済を根っこから抑えることだった」


「ええ、その通りです」


 官銀号……満州における官銀号は、中央銀行の機能だけでなく、質屋、問屋、取引所としての機能も有するものであり、各地からの富がここに集中する仕組みであった。


 そして、それが吉林、黒竜江、奉天の3省にそれぞれ存在し、それぞれの省が独自の経済を有し、同時に別の通貨を流通させている状態だったのである。


「であるからこそ、関東軍は官銀号の接収とその後の営業再開、統合し、中央銀行設立と大興公司への再編によって満州経済を統一化、円ブロックへの組み込みを行うことが出来たのです」


「それは私も知っている。そもそも私は関東軍参謀長だったのだから、その辺りも把握しておる」


 満州国成立後の昭和10年(1935年)9月に東條は関東軍に赴任し、関東憲兵隊司令官としてコミンテルンによる影響を受けた将兵を摘発し、帝国陸軍の赤化を防ぐ功績を挙げている。その後、板垣征四郎の後任として関東軍参謀長に就任、辣腕を振るう。


「では、東條さんが満州に渡られた昭和10年、関東軍、支那駐屯軍、満鉄を含んで華北分離を目論んだ資源調査団が華北に派遣されておりますが、その直後の11月……蒋介石は支那全土で通貨改革を実行します。それは覚えておいででしょうか?」


「うぅむ、そう言うこともあったな……」


 どうもこのあたりは旗色が悪い様だ。カミソリ、メモ魔と言われた東條も憲兵隊司令官としての職務に邁進していた時期だけに多忙を極めていたはずである。


「問題は、ここなのです。蒋が通貨改革を行った際に、我が帝国だけが失敗すると踏んでこれに賛意を示さず現銀と新通貨の交換を拒否したのです……しかし、欧米はこれに協力し、翌36年1月には殆どの在支那外国銀行が現銀を放出し、新通貨に交換することに応じたのです」


「無論、我が帝国はそれに対抗して色々と工作をしていたはずだが……」


「ええ、結局は資本力の差で失敗するわけです……。大蔵省の読みが外れたわけです。しかし、東條さんも御存知の星野直樹氏、彼は逆に欧米と同様に新通貨への交換に応じるべきだと主張しているのです……。ゆえに、我が帝国が満州のみならず、華北にも緩衝国を望むのであれば、通貨改革を阻止する必要があるわけです。同時にそれには少なくとも大英帝国の協力を引き出す必要があるのです」


 史実において通貨改革に最初に応じたのは英国資本であった。中華民国からの要請に応え、11月3日の幣制改革実施の翌4日以後の現銀使用禁止を通達、新通貨への兌換を命じていたのだ。これには有利な条件による交換の確約があったからであり年5%の利子を受けることが出来た。これらの条件によって翌1月10日までに在支那外国銀行は全ての現銀を新通貨と交換を完了していたのである。


 これによって、中華民国は銀本位制から通貨管理制度へ移行したのである。地方においては数年かけ順次新通貨へと切り替えが進んでいく。


「つまり、満州事変での成功はこの世界でもほぼ約束されていますが、同じ成功はほぼないとみるべきで、前世同様に華北分離を狙うのであれば、今の時点から円ブロックに組み込むように経済的に侵略していく必要があるのです」

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