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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2586年(1926年)

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対支那経済支配戦略構想<2>

皇紀2586年(1926年)1月5日 帝都東京 有坂邸


「岸……信介……ですか……」


 有坂総一郎は東條英機大佐の口から出てきた人物の名に驚きを隠せなかった。


 岸信介……東條とともに満州の弐キ参スケと呼ばれる傑物5人に含まれる人物であり、戦後史においても重大な局面に指導力を発揮し、総理の座を降りてからも絶大な影響力を有した人物だ。同時にこの世界で仙石貢鉄道大臣の側近として活躍している佐藤栄作は彼の弟でもある。


「なんだ? 不服か?」


 総一郎の複雑な表情に東條は顔色も変えずに尋ねる。


「岸さんは……東條内閣末期に重臣グループと結託し、倒閣工作を行った方ですよ? 東條さんも、その屈辱を、恨みを忘れてはいませんでしょう?」


 史実において、東條は政治と軍事の統合を図るために後に悪名高い”東條幕府”政策を実施し、陸軍部内の反対を押し切り総理大臣、陸軍大臣、参謀総長を兼務することで大本営から上がってこない軍事情報を把握し、より適切な戦争指導を行うべく改革を行った。


 だが、陸軍部内は東條の非常時による特例、事後の引責の言質を得ることで了承したが、海軍部内はすこぶる受けが悪く、元々海軍部内で不人気であった島田繁太郎海軍大臣の軍令部総長兼任に強く反発が起きた。


 そして、海軍の長老たる予備役大将で総理大臣経験者である岡田啓介、米内光政らは他の重臣たちと結託、倒閣工作を画策し、昭和18年の内閣改造(省庁再編)によって無任所大臣となっていた岸を引き込み、辞任拒否による倒閣を狙ったのである。


 大日本帝国憲法による内閣制度の不備を利用した倒閣工作であり、総理大臣による閣僚罷免が出来ないことを盾にした閣内不一致を造り上げ、これによって合法的なクーデターを行ったのだ。


 この時、東條と岸の関係には亀裂が生じており、その原因は商工省の軍需省への改組と東條の軍需大臣兼務による岸の降格(改組前は商工大臣だった)によるものであったが、絶対国防圏への米国の侵入、マリアナ方面の戦局悪化を経て戦争指導の方向性の不一致が岸を離反させる要因になったのだが、これを米内らに利用された形になったのである。


「あれは仕方がない。私にも非がある。それにそもそも海軍の馬鹿どもが裏で糸を引いていたのだから、岸に責任を押し付けるのは公正とは言えんだろう」


「ですが……」


「有坂よ、確かにアレは不愉快な話だ。だが、私の内閣で(アレ)はよく働いてくれた。戦時経済、軍需生産体制を支えられたのは(アレ)と蔵相の賀屋さんの尽力によるものだ。働きに報いてやらなかったのだから、(アレ)に恨まれても仕方ない」


 東條の瞳には一点の曇りもなく、偽らざる本心からそう言っている様である。


「有坂よ、今の我々と(アレ)は向いている方向が違うから話し合っても物別れになるかもしれん、だが、アレは一流の政治家だ。官僚の枠にとどまる人間ではない。いずれ、(アレ)の力を頼ることになるだろう……それに(アレ)の弟と貴様は鉄道省関係で懇意なのだろう? そのパイプがいずれ活きるだろう」

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