蒋介石、起つ
皇紀2585年12月20日 支那 広州
上海から回航されてきた永翔級砲艦、永翔・中山の2隻が広州湾に進入するや蒋介石が校長を務める黄埔軍官学校に照準を合わせ突如砲撃を開始した。
後に広州湾事件と呼ばれる共産化国民党軍による蒋抹殺を狙った事件である。
砲撃が始まった時、蒋はまだ自身の官舎で就寝していた。だが、帝国陸軍時代の習慣から砲撃の音で目覚めるとすぐ近くに置いてある軍服に素早く着替え校長室へ駆け込んだ。
「何事か、すぐに確認して報告せよ!」
蒋が校長室に飛び込んでからすぐに顔を見せた士官に命を下す。
続々と集まる側近や士官を前に蒋は檄を飛ばす。
「非常事態である。信頼のおける諸君以外は皆敵であるとみなす。配下の兵を率い、直ちに共産党分子を拘禁、武装解除せよ! 事後、沖合の敵艦と接触を図り、これをも武装解除させん!」
蒋は明快な指示を部下に与え、続々と上がってくる報告を聞き、情勢を分析しつつ反撃のタイミングを計る。
夜が明ける頃には彼の側近たちは共産党員を殆ど拘禁、武装解除することに成功し、反撃の体制は整った。
「毛沢東、周恩来ら幹部級共産党員は事態を察知し逃走した模様」
「よい、捨て置け。連中は今は何も出来ん。我らが対応するのは目の前の敵艦だ。恐らく、今頃は陸戦隊を上陸させる頃合いだろう……ソ連式に訓練した我らを見くびったツケを支払わせるぞ」
部下の報告を聞くと同時に側近たちを見まわし、檄を飛ばす。
直後、校門前から銃声が聞こえ、士官候補生たちの応戦が始まった。
「長い一日が始まった……だが、これは一日の始まりではない……私が権力を握るための戦いの始まりなのだ」




