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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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既定路線の確認

皇紀2585年(1925年)12月1日 帝都東京 有坂邸


 この日、有坂総一郎は東條英機大佐を自邸に招く。


 元々、この日の謀議は予定されておらず、他のメンバーは呼ばれていない。平賀譲少将は転生者仲間であることから総一郎は東條と同様に声を掛けていたが、彼は艦政本部の仕事で都合がつかず東條のみが有坂邸に足を運んだのであった。


 陸軍省から公用車で有坂邸に乗り付けた東條を玄関で出迎えた総一郎は挨拶もそこそこに応接間へと案内する。


「さて、今日はどういった用かな? 貴様からの呼び出しなど最近では珍しいから応じたが……」


 ソファーに座るなり東條は切り出す。


「東條さんは既にお聞きでしょう? 支那の政変について……」


「あぁ、国民党の内紛のことか?」


「そうです。前世同様に第一次国共合作が崩壊する予兆の内紛です」


 お互いに先の「西山会議派」の分離が今後の帝国の動きに大きく影響すると理解した上でのやりとりだ。


 史実において、西山会議派の分離と党中央の右派弾圧は、翌26年の蒋介石誘拐を目的とした中山艦事件を引き起こし、そしてこれを鎮圧した蒋介石の株が急上昇し、26年夏の北伐へと繋がっている。同時に蒋介石は北伐の過程で国民党における大きな影響力を有するようになっていくのだ。


「前世よりも国民党右派の弾圧が激しいように思えるが……」


「左様です。おかげで西山会議派の勢力が拡大しており、党中央と左派は巻き返しを図っている様です。特に右派の主要人物が揃って西山会議派に与し、また張作霖などを頼って亡命していると聞きます」


「つまり……それだけ蒋介石の存在感が大きくなるということだな?」


 東條の目が光る。眼光鋭く睨む先は広州の蒋介石だ。


 蒋介石の台頭によってバラバラであった支那が中華民国に再編される史実が再現されつつある状況を悟る二人は今後の展望を語り合う。


「恐らく、今回の政変で右派が失脚し、国民党中央は実質的に共産党による乗っ取りが進行していると思われます。であれば、党中央におらず統制の利かない存在、それも、党軍の実質的な指導者である蒋介石の拘禁を狙うのは必定。前世中山艦事件と同様の事件が起こり得るかと……」


「早まるか?」


「党中央の焦り具合を考えると年末にも起こり得るかと……」


「……であるならば、奴のことだ。機を見るに敏。すぐに動くだろう……早まるとなれば……」


 東條は応接間の壁にある世界地図を睨む。


「有坂、地図を……支那全図を出せ」


 東條の意図を理解した総一郎は本棚から地図を取り出し、テーブルに広げる。


 ここ有坂邸の応接室は、実質的に第二の参謀本部となっているのだ。本来、地図は陸軍が厳重な取り扱いをしているため軍用の地図の流通はしない。だが、ここには参謀本部にある地図と近しい精度の地図があるのだ。


「相変わらず測量部の作った地図と変わらぬ精度だな……いや、付録を考えるとそれ以上だ」


「満鉄に依頼して作ったものですから、満州、華北に関しては陸軍の管理する地図よりも精細かもしれません」


 総一郎は満鉄の島安次郎に依頼して満州、華北の地図作成、測量を行っていた。これによって判明している地質なども含め、有坂邸にある地図には付録を含めると陸軍の管理する地図を凌駕する情報が詰まっている。


 現在は華中のものを作成しているが、順調であると島から連絡が来ていた。


「何れ、マレーやインドシナ、蘭印のものも作らねばなりません。もっとも、未発見の油田や鉱山の場所はおおよそくらいでしたら現行の地図にいくらでも書けますがね」


「それはまだ少し早かろう。それこそ軍機そのものだ。満州の油田や蘭印の油田など教えてやる義理はないからな」


「仰る通りですね」


 この秘匿地図こそが有坂-東條枢軸の力の源泉ともいえる。それだけに外部への流出を控えるため、これの存在は総一郎と妻の結奈、東條、平賀しか知らない。


「話がそれたな……蒋介石の北伐が来年春に行われるとするならば……南京・上海の陥落は……」


「恐らく……来年夏から秋となるかと……」


「前世の南京事件の悲劇は繰り返されると思うか?」


「十中八九……標的は我が帝国と大英帝国かと……前世よりも大英帝国と支那の関係は悪いですからね……英国租界は第一標的になるでしょうね」


「で、あれば……大英帝国からの出兵依頼も来るか……ふむ、前世よりも状況は悪くはなさそうだな」


 この世界での状況は少し史実とは違う。英中関係は史実よりも悪化していることもあり、大英帝国は支那情勢に非常に敏感である。場合によっては出兵を辞さないだろう。史実においても出兵依頼が来たが、空気を読めない幣原外交の結果、その機会を活かすことは出来なかった。だが、既に幣原喜重郎は失脚しているため、再び政界の表舞台に戻ることは難しい。


「現地邦人や領事館などの方々には申し訳ないですが、前世同様に犠牲になってもらう必要があるかと……」


「それは仕方あるまい、租界防衛の兵を派遣するにしても大義名分がないからな……」

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