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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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参謀本部

皇紀2585年(1925年)11月15日 帝都東京 参謀本部


 満州という土地はこの時代、清帝国の崩壊によって事実上独立状態にあった。ただ、国際社会は半独立状態を認識しつつも日本影響圏の支那国家領域という建前で扱っていた。


 では、誰がこの広大な原野を支配しているのか、一口で答えることは出来ない。


 なぜならば、軍事勢力という単位でみれば各省を根城とする軍閥が割拠し、政治勢力という単位でみれば奉天軍閥を中心とした連合政権である。


 このような複雑な条件であることは彼ら軍閥にとっては自身の都合に非常に良かったが、こと、大日本帝国にとっては必ずしも好都合というわけではなかった。


 沿海州と隣接する地域や吉林省には旧ロシア白軍の残党が軍閥に与するか馬賊と化し、治安は非常に悪かった。大日本帝国が暫定統治している沿海州の治安を乱す原因でもあり、同時に沿海州経済にも大きく負の影響を与えていた。


 また、黒竜江省にはソ連のスパイや工作員が多数潜伏し、アムール川を渡河し沿海州へ浸透を図るなど、大日本帝国にとっては看過することが出来ない状況であることがシベリア方面軍から陸軍参謀本部へ毎日のように報告が上がっていた。


 だが、満州を代表する政治勢力でもある奉天軍閥の領袖の張作霖は大日本帝国との関係を構築しており、大日本帝国の代理人という役割を担っていたのである。


 このこともあり大日本帝国は表立って満州に介入することが出来なかった。同時に陸軍退役大将田中義一(政友会総裁)との個人的な付き合いもあり、田中の取り成しと周旋によるところもあり、張作霖に不満を述べるということもまた出来ずにいた。


「シベリア出兵末期、ハバロフスク攻防戦が行われている頃、満州側から国境を越えて正体不明の集団が行動していたが、あれは奉天軍閥ではないにしろ、満州のいずれかの軍閥が極東共和国やパルチザンと共闘したものであるのは間違いない……。そして、現在の沿海州の治安悪化はこれと大いに関係があると言わざるを得ない。まして、我が帝国が後援しておる張作霖はこれに応えようとすらしておらぬ」


 凱旋将軍、英雄将軍との呼び名も高く今世の春を謳歌している荒木貞夫中将は今や参謀本部第一部長として帝国陸軍中央に君臨している。参謀本部第一部は作戦指揮の中枢ともいえる部署である。


 荒木はその大任を背負っている存在にまで成り上がっていたのだ。その荒木はシベリア方面の情勢悪化とシベリア出兵時の関係性を指摘する。


 かつてイマン川鉄橋を爆破された時のことを荒木は思い出し、微妙な表情を浮かべて続けた。


「あの時から満州の軍閥は敵対姿勢を取っていた。だが、陸軍中央や政治はそれを見ないふりをした。目の前にある問題を解決することを優先したからだ。しかし、今や我が皇軍は近代化が進み、シベリアでの教訓を得て歩兵の火力も十分に強化されておる……」


「荒木部長殿、機は熟しております。張作霖は北京に出張っており、奉天を始め満州各地は空の様なもの……軍閥の主力が華北にある今を逃すべきではありません」


 小畑敏四郎中佐は荒木の言葉を継ぐように情勢が大日本帝国に傾いていることを主張する。


 小畑はバーデンバーデンの密約の破綻以来、荒木や真崎甚三郎少将とともに行動し、荒木が第一部長に就任すると作戦課長として呼び寄せたのである。


「小畑、貴様の言う通りワシもそう思う。問題は満州はからでも軍閥の戦力はそのままということじゃ」


 荒木は小畑の作戦課長就任とともに満州侵攻に関する作戦立案を命じ、秘密裏に研究を進めていたのである。


 満州軍閥は総兵力30余万にも上り、そして、大日本帝国の援助もあり、奉天に大兵器廠を設立し、兵器の自主調達を可能としていたのである。これによって第二次奉直戦争に勝利し、北京周辺を根城とする直隷派を放逐することに成功したのである。


 そして、彼らの勢力は華北平原に伸張し、華北の資源地帯を抑えることに成功している。


「奉天派が瓦解、もしくは国共合作を崩壊させ三つ巴にする必要がありますな……」


 小畑は目を細めそう言うと軍機と判が押された書類を荒木に手渡した。


 荒木は書類と小畑を見比べつつ、その内容を読み込んでいった。

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