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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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泰平組合

皇紀2585年(1925年)10月3日 帝都東京


 この日の朝、有坂総一郎は出社する直前にある商社の営業マンの訪問を受けていた。彼の名を堀三也という。


 彼は日焼けしガッチリとした体つきで眼光鋭く商社の営業マンという風には見えなかった。


「朝のお忙しい時間に突然の訪問、まずはお詫び致します」


 丁寧な挨拶ではあったが、話を聞くまでは離さないと威圧を感じる彼のそれに総一郎は出社を遅らせることとした。


 彼を応接室に通し、ソファーに落ち着くと総一郎は主導権を与えないために先に口を開いた。


「商社の方にしては些か不釣り合いな感じのお方ですね」


「よくそう言われます……現役の帝国陸軍軍人ですから、それは仕方がありません」


 堀は隠すつもりはなく正直にそう話した。


「私は帝国陸軍から泰平組合という商社連合に出向しており、主に帝国陸軍と泰平組合のつなぎ役として活動しております」


 泰平組合……三井物産、大倉商事、高田商会が競争しつつ各国各勢力に独自で競争しつつ兵器売り込みをしていた現状に南部麒次郎中将が明治40年に三社の協力を説き、41年に設立された民間の武器輸出商社組合である。


 後に昭和通商に改組され陸軍が指導する半官半民の企業となり、最盛期には社員3000名、内外の臨時職員を含めると6000名規模の大企業となった。


 昭和通商は陸軍が秘密裏に工作を画策し、民間人などに接触を図る際のフロント企業としても機能し、工作機関としての役割も担っていた存在である。


 また、阿片問屋としても暗躍し、満蒙朝鮮で作られた阿片を支那大陸に持ち込み売り捌き、帝国の戦略物資買い付けなどに貢献している。


 その泰平組合に属する者が総一郎と接触を図ってきたのである。


「泰平組合……帝国陸軍の代行企業ですね……その泰平組合さんが私に、有坂重工業にどういった御用でしょうか?」


 総一郎は何となくではあるが彼の要件に察しがついた。


 出資もしくは業務の委託と言ったところだろう……と。


「お察しではあると思いますが、私どもの事業に参加していただきたいのです。大戦が終結して以来、我々の事業も縮小傾向……そのため輸出が伸び悩んでおり、陸軍省からも財政難であるから輸出を増やせとお達しが出ておりまして困っておるのです」


 彼は心底困ったという表情でそれを訴えかけてくる。


 実際に懐事情は思わしくないのだろう。売れる相手が居ても、どこの国も兵器がだぶついているのは容易に想像出来、同時にどこの国も積極的に在庫整理に動いているのは誰もが知っていることだった。


「既存の旧式兵器を売り捌こうとしても難しいでしょうね……ですが、兵器以外の装備を売るというのは如何でしょうか? いささかの開発期間は必要でしょうが、帝国陸軍にとっても必需品になるモノに心当たりがあります」


 堀は総一郎の提案に眉が動いた。興味を持った様子だ。


「どういったものでしょう?」


「栄養食品です。帝国陸軍でも戦闘糧食として配備すれば前線での栄養不足を回避出来ますし、大量生産が出来ればそれだけ生産原価も下げられ、陸軍の調達数を増やすことも出来ます。しかも、食べ物ですから一定期間で消費することを要求されますし、経験と知識がなければそもそも他国も真似が出来ないでしょう」


「確かに前線の栄養不足は深刻でしたからな……それは陸軍でも現在も研究が続いておるとは思いますが……なるほど……正面装備だけではなく、そう言ったものも商品となり得るのですな……」


 陸軍の白米主義が脚気患者の大量生産という悪夢を生んだそれを堀は重く受け止め、同時に前線での食事の重要性を理解していただけに彼は大いに頷き、前向きな表情でそれを手帳にメモしていた。


「今は関東軍に所属している川島四郎という主計士官がいると思うですが、彼に研究開発を任せてみてはいかがでしょうか? 私からも参謀本部の知り合い(東條)に話をつけてみますので、堀さんからも陸軍さんにお話を通してみては?」


「わかりました……その線で話を進めてみましょう」


 来た時の表情と変わって晴れやかな表情で堀は有坂邸を後にしたのであった。

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