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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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165/910

大角の狙い

皇紀2585年(1925年)9月10日 横浜


 大日本帝国海軍が世界に向けてとある発表を行った。


「我が帝国海軍は、先の加藤声明よりも踏み込んで、自主的に補助艦艇の建艦計画を白紙にし、同時に浮いた予算を国内のインフラ整備に充てるため、国庫へ返納し、同時に民間への補助金を支出することで欧州大戦、シベリア出兵以来の膨張した海軍予算の国民への還元を行うこととする」


 この発表は英米だけでなく、欧州諸国をも驚かせる内容であり、同時に大日本帝国と帝国海軍を称賛する新聞報道が後日なされ、欧米各国においても大きく影響を与える結果となった。


 これは、海軍次官である大角岑生中将が横浜に在日本外国人報道関係者、在日本外国人財界人を招いたパーティーの席上で行い、パーティーの開催と同時に駐日本各国大使館にも手交されたのであった。


 この席上で大角はドイツ・クルップ社の在日代表の姿を認めると彼に近づき、挨拶をするととともにこう言った。


「御社にとっても、今回の話は無関係ではありません。御社が我が帝国でより大きなビジネスをお望みでしたら、お得意の製鉄、造船でお力添えできるかもしれませんぞ?」


 大角の狙いは欧州において製鉄、造船、火砲で一、二を争うドイツ・クルップ社、イギリス・アームストロング社に競わせて造船所拡充、それに伴う鉄鋼需要への供給、製鉄所と製鉄技術の移転を促すことである。


「大角次官、あなたの狙いは我が社とアームストロングをはかりにかけてよりよい条件を出した側を優遇するというものでしょう? 下心が見え見えというのは些か……」


「これは失礼、だが、それでもあなた方はこの機会を活かすだろうと踏んでのこと……特に御国はフランスのルール進駐以来のゴタゴタ続き、であるならば、そこに手を差し伸べるのは帝国臣民、いや軍人として当然のこと」


 大角は心にもないことを平気で口にしている。だが、足元を見て商売をするのは当たり前すぎることであるからクルップの代表たちも意に介さない。


「我が国の製鋼量では国家が必要とする量を供給しきれない。当然、官営や民間の製鉄会社も拡張や増産は行っているけれども、そもそもの絶対量が足りない。特に、我が国の様な海運国であるべき国家であれば船はいくらあっても足りないだろう。まして、海外から資源を輸入する必要がある国であるならば……御国であればその意味わかりますな?」


 大角からの意味深な言葉にクルップの代表たちは困惑した。


 言葉をそのままに受け止めれば、貿易を行うのに必要な船を造る能力がなく、ましてそれに必要な鉄鋼の生産も心許ない。だから欧米からの投資を呼び掛けている……。


 だが、穿った見方をすれば、次なる戦争のための準備をするため、他国の力を利用して国力を高めようとしている。


「大角次官、仰ることがよくわかりませんな……今は大戦の後始末で中古船が多く出回っている。それを格安で手に入れることも出来ましょう? 特に御国は我が国の優秀船舶であったカップ・フィニステレ……今は大洋丸ですか……これを戦後賠償として得ている。こういった船齢も若く優秀な船舶が多くある……だというのに、自前で建造することを望まれる……」


「今は良いでしょうな……ですが、いずれ、そういった優秀船舶も20年もすれば退役する。その頃に必要となる船舶はどこも同じ時期に発注建造されるでしょう……であれば、我らは弱者となる。であれば、それに備えるのも国家を指導する者たちとして当然のことではありませんかな?」


 大角の言葉に黙らざるを得なかった。


 大角の真意はドイツ人たちにはわからない。だが、理屈は通っている。いや、通り過ぎているからこそ、クルップ日本代表は大角を怪しく思った。


 だが、大角の意図が何かは兎も角、クルップという企業にとっては大きなビジネスチャンスである。


「本国の本社に日本への投資を呼び掛けましょう……恐らく、良い返事が来ると思いますが……」


 そう言いつつも歯切れの悪いクルップ日本代表だった。

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