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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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手土産と塩梅

皇紀2585年(1925年)8月28日 帝都東京 総理官邸


 残暑厳しいこの日、額の汗を拭きながら総理大臣加藤高明と対面している人物がそこには居た。


 彼の名を大角岑生。海軍中将で海軍次官の任にある人物だ。史実では大角人事を敢行し、条約派を尽く予備役や退役に追い込んだと悪名高い人物である。だが、彼自身は艦隊派に属しているわけでもなく、むしろ中立的立場にあったことを知る者は少ない。


「本日は海軍大臣事務管理、いえ、総理としてのお呼びでしょうか?」


 大角は額の汗を拭きつつも憮然とした表情で加藤に呼び出しの要件を尋ねる。その態度から非協力的な様子は見て取れる。大角にしても自分が呼び出されるのは心外なのだろう。


「立場としては両方だと思って欲しい。まずは、総理としての役割を果たしたい」


 そう言うと同時に加藤は大角に頭を下げた。


「例の加藤声明だが、撤回は出来ないが、海軍に対し深謝する……軽率であった。知っての通り元凶である幣原は更迭した。今後は海軍の協力をお願いしたい。大角次官、君には我が政府と海軍の橋渡し役となって欲しい」


 海軍は内閣総辞職から後、ここに至るまで海軍大臣を内閣に送っていない。そのため、現時点では海軍大臣の代理として海軍大臣事務管理という臨時職を加藤が担っている状態だ。


 読んで字の如くだが、行政時の事務手続き、決裁などを代理で職務遂行するための臨時職であるがゆえに、軍政には触れることが出来ない点が多い。そのため、現状では海軍次官である大角の協力を得ることが加藤にとっては最優先事項である。


 本来であれば軽々しく頭を下げるなど海軍の増長を招く悪手であるが、背に腹は代えられない。


「なるほど……総理は少なくとも海軍には誠意を示す御意思がおありの様ですな……我ら海軍も子供ではないのでいつまでもへそを曲げたりは致しませぬが、いくらか土産を用意していただけませんとね……」


 大角の目に見える形での手打ちの要求に加藤は満面の笑みを浮かべた。


 加藤の表情の変化に大角は警戒するが、すぐに驚きの表情に変わるのであった。


「次官、私は……いや政府、内閣は、海軍の新型巡洋艦の建艦予算を追加で4隻分手配しようと考えている。これで海軍は8隻2個戦隊分の巡洋艦を得ることになるだろう。如何だろうか?」


「4隻分ですか……それは……」


 大角はそこまでの要求をするつもりはなかった。せいぜいが執行停止分の解除といくらかの便宜程度を狙っていたが、思わぬ申し出であり驚き戸惑った。


「代わりに、旧式戦艦、具体的には敷島・朝日・薩摩・安芸の廃艦を実行していただきたい。これは流石に列強との関係もあり、いつまでも誤魔化していることは出来ない。海軍もお荷物だろうから、これと引き換えに新型巡洋艦を同数建造することで海軍への手土産としたい」


「なるほど、代艦というわけですな? そういう意図であれば、破格の手土産の理由としては納得出来ますな」


「では!」


 加藤は海軍の譲歩を引き出せそうだと喜びの表情を浮かべるが、それを大角は手で制した。


「総理、我々海軍も馬鹿ではない。そう単純な話にせんでいただきたい……それでは国民に海軍が面子と引き換えに軍艦を手に入れたと思われる。それだけではない。米英も軍縮と言っておきながら、旧式艦を新型艦に置き換えただけだと誹りを受けかねない」


「確かにそうだが……」


「この話は海軍部内に持ち帰ってから改めてお返事致します。まぁ、海軍部内では総理の手土産に満足するでしょうから、無難なところでまとめてきましょう。私とて亡き加藤友三郎閣下や財部前大臣と同じく、軍縮条約に否定的ではありませんからな……」


 大角はそういうと敬礼をすると官邸を後にした。その帰りの足取りは本人が思っていたよりも軽かった。

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