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誤算の始まり

皇紀2581年(1921年)12月28日 帝都東京


 ワシントン会議は史実と異なる展開を見せた。


 そんな中、帝都東京にある有坂重工業の工場では1個連隊分の試製自動小銃と試製短機関銃が早くも完成し、予備品と合わせて陸軍への納品を待っている状態であった。


――この新兵器がシベリア戦線で活躍することで戦局の打開と満州への影響力、北樺太の割譲につながるはずだ。ふふふ……はははは……。


 帝都工場の執務室で有坂総一郎は笑っていた。


 彼の計画では新型銃火器の投入によって投射する火力が増大すること、自動小銃の採用によって装弾時間短縮、連続射撃が可能になり、悪化しているシベリア戦線において反転攻勢に出られると考えていた。


 そして、装備した試験連隊の戦果と使用実績を示すことで三八式歩兵銃から装備更新することで巨額の利益を上げることと、帝国陸軍の歩兵連隊の攻撃力増強を図れると思っていたのだ。


 彼と宮田中将との密約ではシベリアへ派遣されている浦塩派遣軍の第9師団へ補給という名目で新装備を送り、彼らに戦場で評価試験を行わせることになっていた。


 有坂・宮田密約で提示された通り、小銃は7.7mm、短機関銃は8mmの実包を使うこととされ、三八式実包の6.5mmよりも威力や直進性などが強化されていた。


 彼の高笑いが収まった丁度その時、待っていた訪問客がやっと現れた。


「遅くなった……例の新装備、受領しに参った」


 密約の片割れ、宮田太郎中将である。本来であれば彼の部下が受け取りに来るか、有坂重工業の社員が納入するのだが、宮田は事の重大性から自身で受領することを選んだ。


 彼は受領書を発行し、代わりに仕様書の束を受け取り、それを2人の部下に持たせた。


「柴田、貴様は陸軍省に運べ、坂巻、貴様は砲兵工廠へ運ぶのだ、行け!」


 二人の部下が仕様書を運び出すと宮田は応接セットへ移動しソファへ腰かけた。


 大きく溜息をついてから彼は煙草を取り出して火をつけようとしたが……。


「ん? 火種がない……有坂、火を寄越せ」


「私は煙草をやりませんので、生憎火種を持ち合わせておりません……少しお待ちください」


 総一郎は隣室に行きマッチを借りて戻ってきた。


「閣下、最近は煙草をやりすぎではありませんか?」


「貴様があれやこれやと言うからではないか、色々と便宜を図ってもらっているからそれには応えねばならん……それに、アレが期待通りの成果を上げれば兵たちの犠牲も減る……」


 宮田は窓の外を遠い目で眺めた。


 彼の視線の先には恐らく戦地で苦しむ帝国陸軍の将兵の姿が浮かんでいるのだろう。


「俺は日露戦争で火力こそが、物量こそが、これからの戦争だと学んだ……そして、欧州大戦はその通りに総力戦になった……だが、我が帝国はどうだ? まったく、あの時から変わっていない。それではいかんのだ……なんのために技術畑に転身したのか……」


「閣下の御心痛は理解致しております。きっと、新装備が戦局に寄与するとこの有坂は確信しております」


「だと良いがな……」


 彼らはこの時はまだカタログスペックによって新装備を過信していたことに気付いていなかった。カタログスペックでは確かに彼らの想像する結果を出し得るものだったが、しかし、所詮はカタログスペック。実際の運用ではカタログスペックとは違う結果がもたらされるのであった。


 そして、カタログスペック通りの結果もまた、彼らにとっては誤算であった。気付いている、理解していたはずの問題点を、現実という打開しなければならない問題を浮上させることになるのであった。

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