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踏み絵

皇紀2581年(1921年)12月14日 アメリカ合衆国 ワシントンDC


 加藤友三郎は本国からの打電を受け、緊急の総会開催を要請し関係国は要請を受け入れ、総会が臨時開催された。


「我が帝国は扶桑型2隻を廃艦とすること、その代艦として陸奥の保有を認めるように要請する」


 加藤の言葉に議場は騒然とした。


 海軍随行員が勝手に会見を開くなどして、昨日まで非公式であったが日本側は対英米7割を強硬に主張し紛糾させていたが、一夜明けると逆のことを言い始めたのだから驚いての当然のことだ。


 それも公式要求が陸奥の保有を条件に対英米6割という条件だったものが、そのハードルを下げてきたのだから、関係国は揃って何が何だかわからないという表情だった。


 そんな議場で一人の紳士が拍手をした。大英帝国全権のバルフォアであった。


「大英帝国は日本の提案を軍縮条約の意義と精神に合致するものであると考え、支持する」


 バルフォアの支持を受けてさらに加藤は続けて言った。


「我が帝国海軍の保有戦艦は、陸奥を加えると金剛型4隻、伊勢型2隻、長門型2隻の8隻となる。ゆえに、ここを基準として英米の戦艦の保有量を決定していただきたい……ミスター・バルフォアはこれに賛同いただけますかな?」


「この会議の本義は太平洋の英米日の戦力均衡が目的である……ならば異存はない」


 バルフォアの発言にアメリカ全権のヒューズは怒りを露わにした。


 事前に英米は強調して日本を封じ込めようと考えていたところを手のひらを返したように賛同するなど許しがたい事態であったのだ。


「合衆国は陸奥の保有を認めるつもりはない。陸奥の保有を認めることは戦力均衡を崩すものである……ならば、戦力均衡の原則から我が合衆国も建造中のコロラド級の保有を認めていただきたい」


「その様なことを認めれば、大英帝国も同様に建造枠を得ることとなる……それは軍縮ではなく、建艦競争の再開ではありますまいか。それが合衆国の意志だと?」


 加藤は顔色一つ変えずにヒューズに反論した。これにはさすがのバルフォアも加藤に同意せざるを得なかった。


「アドミラル・カトーの言の通りだ。アメリカが保有を要求するのであれば、我らも同様に要求する権利がある……だが、それは軍縮ではないであろう……」


 バルフォアはフランス、イタリアの全権団に視線をやると彼らも同意するように頷いた。


 元々フランス、イタリアはおまけでしかないが、会議の成り行きでは自分たちにも枠が得られるということもあり様子見と機会をうかがっている状況であった。


「では、こうしましょう……日米英仏は太平洋における要塞、根拠地の現状維持、無断の拡張など行わないと……そして、英米の16インチ搭載艦の枠を認める代わりに、空母改装枠を要請したい……また、仏伊に旧式戦艦廃棄の代艦建造枠を割り当てることで如何か?」


「我が共和国は日本の提案を支持する……」


「我が国も同様だ」


 この提案にフランス、イタリアは即座に賛同を示し、彼らの全権団は皆揃って自国へ満足出来る成果を得られたと喜びの表情だ。


 彼らにとっては、どうせ自分たちの主張など聞いてくれない会議でしかない。なら日本に味方して自国へ利益誘導した方が良いと割り切っていた。最初から失うものはないのだ。日本案が退けられても最初の条件に戻るだけなのだ。


「如何であろうか?」


 加藤はバルフォアに視線を向け、彼に同意するように促した。


「我が大英帝国は日本の再度の提案を魅力的なものと考えるが、軍縮条約という目的を考えると……賛同はしかねる……最初の提案を基本としたい……」


 バルフォアも本心では賛同したいが、それでは軍縮ではなく軍拡になる……しかも、日本だけでなく、欧州における仮想敵国であるフランス、イタリアも地味にではあるが戦力増強となる提案には素直に賛成出来ない。


 だが、16インチ砲は兎も角、建艦競争で出遅れているイギリスとしては新型戦艦を手に入れる好機でもあった。


「ミスター・ヒューズ……あなたはどう考える?貴国にとってもこの提案は悪いものではないだろう?」


 ヒューズは内心焦っていた。イギリスのバルフォアが協調よりも自国利益を優先した事実、そしてコロラド級の保有という対日優位確立という自国利益……賛同すればアメリカ海軍の不満も解消出来る。


 だが、彼は軍縮条約を主宰している側だ……それが決断を逡巡させていた。


「国益と軍縮という国際大義、どちらを望まれる?」


 加藤は米英が会議冒頭で日本に強いた踏み絵を、彼に踏むように迫ったのであった。

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