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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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失言

皇紀2585年(1925年)8月5日 帝都東京


 東條英機大佐の機転で閣僚たちに警護が付き、総理官邸において開催された緊急閣議に無事全閣僚が揃うことが出来た。


 だが、会議は踊る。


 英米共同声明に対する加藤声明は全閣僚に相談なく総理大臣である加藤声明と外務大臣の幣原喜重郎の間で話し合われ発表されたものだ。


 幣原は自身の持論である国際協調路線を重視し、英米共同声明に同意することを加藤に説き、同意を引き出した。そして加藤声明の原案も幣原が用意し、それに若干の修正を加え、英米の駐日大使を呼び手渡したのである。


 この密室外交に閣僚からも不満と非難が集中し、加藤は終始これを宥めるに徹さざるを得なかったのである。


 声明原案を作り加藤名義で発表させた当の本人である幣原は飄々としていて、それが列席の閣僚たちの反感を買うが彼自身は全く意に介していなかった。


「英米のいうことは尤もじゃありませんか。海軍は何時まで経っても軍縮をしないのですから、彼らの疑念を買うのは仕方がないことだと思いませんか?」


 正論である。


 だが、正論とは所詮は正論。誰にとっても利益になるわけではない。政治というのは妥協点を探して軟着陸させることでもあるのだ。相手が正論を言っているからといっても、唯々諾々と従えばよいものではない。


「そうは言うが、海軍(うち)だって簡単に艦を沈めるわけにもいかん。そもそも、国民の血税の結晶なんだ。綺麗ごとだけではなく、国民感情や海軍の戦力バランスというものにも目を向けてもらわんと」


 海軍大臣財部彪大将は閣僚としてではなく、海軍の代表として幣原に反発する。


「では、いつ軍縮なさるのですか? 英米は軍縮破りだと攻撃してきているのですぞ?」


「だったら、あんたが、外でシュプレヒコールを上げている青年将校に説得して来いよ! うちだって苦労しているんだ。あいつらが暴発したらどうするんだ。連中は軍縮そのものに反発しているんだぞ!」


 財部は海軍内部の派閥均衡を図り、政府の方針に沿うように海軍大臣として励んでいたが、幣原が火に油を注いだ形となり自身の派閥工作が水泡に帰してしまったのだ。


「大体な、統帥権干犯だと騒ぎの元凶はそもそもがあの声明、いや、幣原さん、あんたにあるじゃないか! 寝ていた猛獣を叩き起こした自覚があんたにはあるのか? 艦隊派が反軍縮だってのはここにいる誰もが知っていることだろう。加藤寛治中将や末次信正少将らが東郷平八郎元帥の後ろ盾で煽っているのは明白だが、彼らに反軍縮の大義名分をくれてやったのは他でもない、幣原さん、あんただよ。そして、それを政局に利用している議会の連中だ」


 財部は機関銃の如く幣原を攻撃し続ける。


 この場の誰もが幣原を考えなしとは思ってはいないが、要らぬことをした張本人であると認識している。そして、政府と海軍を繋ぎ、国際政治と国内政治の微妙な関係を理解し、それを海軍に反映している財部を怒らせてしまったのだ。


「それは海軍大臣である財部さんの指導力の問題じゃありませんか?」


財部は拳を机に叩きつける。


「なんだとぅ! あんたがそう言うのであれば、海軍は政府に一切協力しないと申し上げるしかありませんな! 総理、私はこの件から一切手を引かせていただきますぞ!」


 幣原の要らぬ一言が財部に止めを刺してしまったのだ。


 慌てた加藤は席から立ち上がり、財部の側に行く。


「海相、待ってくれ。外相の失言は総理である私が詫びる。この通りだ。海軍の協力なしには事が進まない……海軍の手綱を何卒……」


「私は軍縮に賛成して政府と協力してやってきた……亡き加藤友三郎大将と共にね……だが、斯様な仕打ちを受け、また、政府が火に油を注いで海軍内部の派閥争いを過熱させるような真似をするのでは、協力するしない以前の話ですよ……」


 幣原の失言は加藤高明内閣に深刻なダメージを与えてしまったのであった。

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