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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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オモチャの正体

皇紀2585年(1925年)7月25日 帝都東京


 石原莞爾少佐がエルンスト・ウーデットを引き抜くために行動していたその頃、遥か彼方の帝国本土では平賀譲少将がとある軍艦の模型を持参して有坂邸謀議に臨んでいた。


「さて、今日の謀議は軍関係者だけということで、機密保持も出来ると思いこれを持参したのだが……」


 風呂敷に包まれた木箱から平賀が取り出したのは模型の巡洋艦であった。


挿絵(By みてみん)


「これは……呉で建造中の古鷹型じゃないか? 平賀君、これは不味いのではないかね?」


 春から海軍軍令部長へ転任した鈴木貫太郎大将は平賀に軍機保持という点で釘を刺した。


「鈴木部長、それでしたら問題はありません。陸軍の方は兎も角、そこの有坂にとってこれは軍機に触れるとかそういう問題ですらないのですから……どちらかといえば、有坂こそ本来は軍機保持の観点から保護されるべき対象ですからな」


 鈴木は平賀の真意を理解出来なかった。


 この場にいる面々は海軍出席者が平賀と鈴木、陸軍が東條英機大佐、そして有坂総一郎の4人であった。つまり、鈴木のみがこの場に集う者たちの正体を知らないのである。


「平賀さん、この模型から推測されるに、速力39ノット、主砲口径15.2cmもしくは15.5cmといったところではありませんか?」


 総一郎は模型を見て公表もされていない数字を述べて見せた。彼の記憶では、ここにある模型の古鷹型を称する巡洋艦は史実における改阿賀野型そのものだった。


 平賀は阿賀野型や改阿賀野型が設計されていた時には殆ど関与していなかったが、彼は見事にそれを再現して見せたのである。


「ほぅ、さすがは有坂くん。これを見てすぐにわかるか? だが、不正解だ」


 平賀は勿体ぶる。


 そして、木箱の中から小箱を取り出し、模型の砲塔を取り外すと小箱から取り出した別の砲塔を取り付けた。


「これが真の姿だ。これは鈴木部長も知らないはずですね? なにしろ、艦政本部の一部の人間の研究という体裁で準備されているものですからね」


 鈴木は説明を要求するような表情であったが、何か言えば不味いと考えたのか無言で通した。


「では、ここでの話を聞かなかったことにしていただきます。さて、今しがた取り外した主砲の口径は有坂くんの指摘通り、15.2cm3連装砲だ。金剛型同様の50口径砲を予定している。で、今取り付けた主砲の口径は20.3cm連装砲だ」


「合衆国がワシントン条約の結果を覆すための次期軍縮条約で補助艦艇の巡洋艦などに制約を加えると……そう睨んでの偽装工作というわけか?」


 鈴木は平賀の真意を理解し、それを確認した。


 すると平賀は大きくうなずき続けた。


「恐らく、次期軍縮条約では建造中止となった旧古鷹型の情報を材料に合衆国は制限を提案するはずです。そうなると、一番最初に建造したところが結局は不利となるわけです。なにせ、既に存在している艦を条約で時代遅れにされても代艦を建造することも出来ませんからね」


「なるほど、確かにそうだな。先のロンドン条約を我が帝国は上手く切り抜けることが出来た。だが、英米は数的優位を確保したが、その実、旧式戦艦を多数抱えることになってしまったからな」


「先行者利益というのは大きなものがありますが、後続する者が同じ発想でより条件の良いものを造れば明らかに先行者が劣るのは必至ですから」


 海軍組が平賀の列強を出し抜く悪巧みに盛り上がっているところで陸軍の東條は冷静だった。


「それで、海軍さんはその予算をどこで上手く回すおつもりですか? 確か、大蔵省の若手官僚の……そう、賀屋さんと言ったかな? 彼に乗り込まれて軍縮を迫られたと聞いていますが」


「あー……それについては……うー……」


 平賀は東條の居抜くような視線に耐えられなくなって目を逸らした。


「鈴木閣下……確か、旧式艦艇の外国への売却という話があったと思いますが? それはどうなっているのです?」


 鈴木も自身の立場から目を逸らさざるを得なかった。軍令部長として下手な発言は出来ない。それが非公式な謀議の場であってもだ。


「はぁ……。有坂、貴様からも何とか言ってやってくれ……海軍が予算を食ったままでは、貴様と組んでいる鉄道省一派も困るだろう? 3隻くらい旧式艦艇を売却すれば新型艦艇1隻と交換出来るそうじゃないか、だったら南米やタイにでも行って話を付けて来てくれないか?」


「新型艦艇と交換というのもそうなのですが、旧式艦艇を1隻売れば新線建設出来ると試算出来ています。もしくは機関車数十両が鉄道省に納入出来ると仙谷鉄道相が言ってましたね」


 自慢のオモチャで盛り上がる海軍軍人に冷や水をぶっ掛ける二人である。



 古鷹型巡洋艦要目

  基準排水量 10000トン

  公試排水量 13000トン

  主砲 15.2cm50口径3連装4基

  高角砲 12cm45口径連装4基

  機銃 40mm連装10基

  速力 39ノット

  機関 16万馬力

  装甲 舷側60mm 甲板20mm 砲塔30mm


 古鷹型重巡洋艦要目《改装後》

  基準排水量12000トン

  公試排水量15000トン

  主砲 20.3cm50口径連装砲4基

  高角砲 12.7cm40口径連装4基

  機銃 25mm4連装10基

  速力 35ノット

  機関 16万馬力

  装甲 舷側80mm 甲板20mm 砲塔30mm

D51形機関車の製造費が12万円程度。

阿賀野型の建造費が2600万円程度。

これが昭和14年ぐらいのレートなので、恐らく、旧式装甲巡洋艦などは700~1000万円程度で売れたのではないかなと……。インフレ率を換算する必要があるけれど、まぁ、それでも比例すると思う。


軍縮するとインフラ整備が捗るね!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >巡洋艦サイズの模型 巡洋艦サイズの模型だと、でか過ぎですね。
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