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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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外堀を埋める

皇紀2585年(1925年)7月20日 オーストリア インスブルック


 腹が決まった石原莞爾少佐は駐独大使館に戻るやいなや出張申請を出し、自宅に戻ると荷造りを始め、夜行列車に飛び乗り国境を超えた。


 向かうところはオーストリア・インスブルック。亡命中のヘルマン・ゲーリングの所在地である。


 ベルリン・エアハルト駅からミュンヘン行きの夜行列車に乗り、大使館の所用を済ませ、翌日、石原はインスブルックへ乗り込んだ。


「やぁ、石原。よく来てくれた。相変わらず狭い家なので大したもてなしは出来ないが、ゆっくりしていって欲しい」


 ゲーリング邸を訪ねるとヘルマン・ゲーリングは両手を広げ石原を歓待する。


 資金提供者の使者役である石原を歓待することでゲーリングは感謝の意を表すると同時に今後の関係維持を望んでいるようだ。


「ゲーリングさん、ここのところ、我が大使館にあなたの紹介状を持った方々が良く訪ねて下さっており、我が国……我が陸軍としても大変ありがたい限りで、特に人的交流が出来ることは我が国益に適うもの大でありまして……とても助かっております」


「それは結構なことですな……私が一筆書くだけで御国の役に立つとは……。亡命の身では出来ることなど大してありませんからな」


 謙遜して見せるゲーリングであるが、多大な貢献をしているのは間違いない。彼が一筆書くだけで大使館は千客万来なのだから帝国にとってゲーリングは非常に重要な人物となっている。


 駐独大使館も昨今のドイツ国防軍関係者や退役軍人の来訪でゲーリングとの関係維持と交際費の支出を公式に認め、出来得る限りの関係構築を望んでいたのである。


「いやいや、特にリヒトホーフェン大隊の方々とつながりが出来たことは我が帝国にとっても僥倖と言えるものです……そこで、ゲーリングさんにお願いがありまして」


 石原は普段の仏頂面ではなく、満面の笑みでゲーリングに接している。不気味さを感じないでもないが、資金提供者の頼みを断りづらいゲーリングは引き攣った笑みで応じる。


「なんでしょう? この身で出来ることなど大してありませんが」


「エルンスト・ウーデット氏を我が帝国へ招聘したいと考えておるのですが、これをあなたの推薦という形でお願いしたいのです。我が帝国の航空機の発展に大いに寄与することは間違いなく、同時に、御国、ドイツにとっても我が帝国を隠れ蓑に航空機開発を行う好機となると思いますが、如何でしょう?」


 石原はウーデットの招聘をゲーリングに依頼すると、同時に裏の意図を明確に伝えた。


「それは……」


 ゲーリングは即答に窮した。


 石原の提案はゲーリング、いやドイツにとっては大きな利益ではあったが、自分たちが政権を獲得しているわけでもない状況での提案には同意しづらかった。


 もっとも、拒否しても受け入れても大きく影響はないのだが、先の欧州大戦においては敵同士であった日本に手の内を晒すのはなんとなく嫌だった。


「先日、我が帝国の企業が大英帝国の企業と合同でエンジン開発を行うことになったそうですが、機体設計などで我が帝国はまだまだヒヨッコ……先達たるドイツの師事を受けることで大いに航空技術が発展するであろうと考えておるのです……そして、ドイツはブランクを埋めることになる。双方にとって利害は一致しておるのではありませんか?」


「……私は即答出来ない。確かに利益があるのは間違いない。だが……、ウーデットがそれを望むのであれば私はそれを拒むことは出来ない……」


 石原の目が光った。


「では、ウーデット氏と直接お話をさせていただきます」


「あぁ、資金提供主の立場もあるだろうから、判断は任せると一筆したためる程度はさせていただくよ」


「いえ、それだけで十分ですよ……我が国とあなた方との関係は今後も安泰というもの」


 ゲーリングの言質を取った石原は満足し、書状を受け取るとその足でウーデットの居るミュンヘンへ再び向かうのであった。

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