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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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標準規格

皇紀2585年(1925年)6月20日 帝都東京


 1921年に勅令によって工業品規格統一調査会が設置され、日本標準規格(JES)が制定された。


 だが、このJES規格によって史実では20年間で500件程度のものが規格として制定されてはいたが、周知の通り、我が帝国においては工業規格の統一とは程遠い状態であった。


 後年、戦時体制において物資の有効活用と手続き簡素化による規格制定促進を狙い、臨時日本標準規格(臨時規格、戦時規格)が制定され、39~45年に900件余りが登録制定された。


 これによって戦時の量産体制構築に貢献したのは間違いないのであるが、遅きに失した感があるのは否めない。


 これらに共通して問題であるのは強制標準ではなく、JES規格、臨時JES規格に適合しない製品の製造を禁止出来ていないことであった。


 だが、38年に制定された航空機製造事業法においては制定された日本航空機規格(航格)は、JES、臨時JESとは異なり、強制標準であった。これにより、航格に適合しない製品の製造流通使用の全てが禁止されたのだ。


 これは工業規格において大きな前進であった。だが、戦時における動員によって品質の低下によって台無しになったのではあるが、戦後の標準規格制定に大きく影響を与えているのは間違いない。


「三菱などの大企業は有坂製工作機械が普及したことで一定水準の製品と精度が保証されるようになったけれど、問題は中小企業や町工場などの資本の体力がない裾野だ」


 商工省の若手官僚たちは帝国の産業界が抱えている問題に正しく向き合っていた。


 ここ数年の急速な産業近代化と量産体制構築という第二の産業革命とも言うべき状態に帝国の産業界は歪な成長が進み、これによってあらゆるところで矛盾が生じていた。


「大企業を支える町工場がJES規格に適合した製品を造らないのでは折角の規格統合も意味がないではないか!」


 JES制定から4年目ということもあり、制度的な不備が噴出し始めたことも商工省の官僚たちにとっては早急に対応すべき問題と認識する良い契機だった。


「そもそも、JESを制定した時に強制標準にしなかったのが問題だったのではないのか?」


「いや、そもそもが有坂製工作機械の普及が想定外の事態だったのだ……アレのおかげで前提が崩れたことで、制度的欠陥が早期露呈した形になったのだよ」


 JES担当の官僚は制度の不備より、制度が想定していなかった事態の展開が制度の陳腐化を促進したと主張するが、彼の主張も結局はセクショナリズムによるところで、現状については改善すべきものだという認識は有している。


「仮に強制標準とするとしても、大企業は問題ないだろうが、零細企業にこれを適用すると大混乱が生じるぞ? これにはどうする?」


「だが、事態の切迫を考えると強制標準こそ我らのなすべきことであろう」


 官僚たちにとって結論が出ているがそれを浸透させる方法が思いつかなかった。


「来年度に法改正で強制標準への移行を推進することは確定として、問題は零細企業への浸透だ。これを何とかしなければならない」


 その時である。今まで黙って事態の推移を様子見していた若手官僚のリーダー的存在の岸信介は口を開いた。


「では、こうしてはどうか? 一定規模以上に零細企業を再編して経営の効率化を図ると同時に集団化、統制化を図るという方向では……どのみち現行の零細企業が数多く存在している状態は非効率だ。この際、経営統合を図ると同時に規模の拡大と整理を進め、政府補助金によって一定期間内にJES適合の製品を生産出来る基盤を整えさせるということでは……」


 岸の発言に多くの官僚は目を見開き、賛意を表明した。


「確かに経営規模の問題も解決出来る……それでいきましょう!」


「吉野課長、課長もそれでよろしいですね?」


 岸は吉野信次文書課課長に同意を求める。


「あぁ、それで構わない。上にはうまく説明しておこう……」

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