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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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ドラフターと自動車学校

皇紀2585年(1925年)6月19日 帝都東京


「旦那様何しているの?」


 有坂結奈は有坂総一郎が図面を引いているのを見て問いかける。結奈は総一郎が平板で製図しているのが不思議で仕方がなかった。


「何って、図面を引いているんだよ」


「なんでドラフター使わないの?」


 結奈の疑問は尤もなものだ。CADの普及で使われる機会が減ったものの、製図と言えば、ドラフターを使ってやるものというのが相場だった。彼女の父もこれを使って仕事をしていたことから彼女にとってドラフターは馴染み深いものであった。


「それだ!」


 総一郎は結奈の言葉に思わず手を膝で打ち納得した。


「なんで今まで気付かなかったんだろう。ドラフターだよ、そう。アレがないことになんで気付かなかったんだろう」


「今頃気付いたの?」


 結奈はこの世界に転生してから何年も経っているのに未だそのことに気付いていなかった総一郎に呆れたが、いつものことであると思い仕方ないなと微笑んだ。彼女にしてみれば日常茶飯事の出来事の内である。


「それで、ドラフターってモノは知っているんだけれど、どんな感じなんだ? というか、この時代にあるっけ?」


「そうね、あれっていつからあるのかしらね?」


 ドラフターは戦後に日本で発明された製図台だ。当然、この時代には存在しない。


「でも、なければないで、作ればいいのじゃないかしら? 普及すればこの時代でも便利なのは確かなのだから……技本の原さん辺りに試作したものを使ってもらえばいいのじゃないかしら」


 結奈はそう言いながら、メモに特徴や機能を思いつく限り記していき、同時に大まかなイラストも描いた。


「結奈、これ、凄いな」


「そうかしら? 実家にあったものを思い出してメモにしただけよ?」


 総一郎は結奈のメモを見ながら、製図台と見比べる。どうやら自宅で日曜大工して試作品を作ろうと考えているようだ。


「旦那様、ここで作ろうとしても材料が足りないと思うわよ? 会社で試作してもらうべきよ。それで、何を書いていたの?」


 結奈は製図をのぞき込む。


 そこにあったものは自動車学校のコースであった。総一郎は自動車学校の雛形を考えていたのだ。


「本格的な自動車学校……一律で同じ教習が可能な量産型自動車学校が必要になってきたと思ってね」


「でも、こんな施設は普通の自動車学校にはないわよ? これって何が目的?」


 結奈が示した一角、普通の自動車学校には存在しないものがそこにはあった。そもそも、その図面にある自動車学校は通常の2倍から3倍の敷地はあるだろうというのが結奈にはすぐに理解出来た。


「あぁ、それは……無限軌道……まぁ、装軌車両の教習が出来るようにってね」


 総一郎の狙いは即席であっても戦車の操縦が出来る人材の育成が出来るようにと先を見越したものだった。平時であれば土木機械のオペレーターとして、戦時になれば戦車操縦者としてベルトコンベア式に動員を可能とする。


 史実での日本における自動車免許取得者の少なさが戦車運用に大きく影響したことを総一郎は忘れてはいなかった。役場において自動車免許取得者はその旨を管理され、徴兵、招集の際に戦車兵や自動車兵として兵営に送られている。


 が、絶対数が少ないのでは戦車があっても操縦が出来ない。そして、現在、トラックの大量生産が必要とされているにも関わらず帝国には自動車学校がない。これでは自動車化社会は到来しない。当然、加速したモータリゼーションを支える自動車学校の緊急性はこれ以上ないくらい高まっている。


 だが、その需要に対して当局は動きが遅い。


「欲深いのね」


 総一郎の狙いの意図を理解した結奈は色々な感情が混ざった複雑な表情で言った。


「欲深い……じゃなく、罪深い……だよ」

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