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代案

皇紀2581年(1921年)12月13日 帝都東京 海軍省


 ワシントンでの条約交渉は海軍随行員の独自行動によって紛糾、海軍省本省における艦隊派の巻き返しなどで軍縮派は劣勢になりつつあった。


 この状況に海軍大臣加藤友三郎は艦隊派の首魁である軍神東郷平八郎へ仲介を依頼するのであった。東郷と彼は日露戦争の日本海海戦で連合艦隊司令長官と参謀長という関係から今も交流を続けていたからだ。


「海軍の責任者たる海軍大臣が6割で良いと言っておるのであれば、大臣の言う通りで宜しい……」


 海軍省における海軍首脳会議で艦隊派は延々と自説を主張し6割案を撤回するように要求していたが、黙って推移を見守っていた東郷元帥が突然口を開きそう言った。


 頼みとしていた東郷の突然の言葉に艦隊派は声を失い沈黙し、首脳会議はそのまま6割案受け入れで決まった。


 しかし、最後に言葉を発した人物がいた。連合艦隊司令長官栃内曽次郎であった。


「本条約で陸奥の保証を確約していただくことで6割受け入れと決することになりましたが……如何でしょう、扶桑、山城の2隻を廃艦とすると提案しては?」


「いや、それでは6割を受け入れて戦力を減ずるのにさらに切り札を失うだけではないか!」


「そうだ!」


 突然の提案に艦隊派、軍縮派問わず反発の声が上がった。


 栃内は声が収まるのを待って真意を説明した。


「確かに、制限されるものをさらに自発的に廃艦するというのは納得出来ないと思います……ですが、よくお考え下さい。扶桑型は皆承知の通り、違法建築同然、その上、全艦危険個所……その様な船を態々後生大事に残しておく必要がありますか?」


 この場にいた者は揃って考え込んだ。


 扶桑型は史実において見捨てられた存在であった。改装を行っても装甲を満足に増すことが出来たわけでもない。欠陥である被弾危険個所が減ったわけでもなかった。そして、待ち望んだレイテ決戦の捷一号作戦で西村艦隊として出撃するも、数発の魚雷の命中で2隻とも弾薬庫の誘爆で爆沈している。


「ふむ……改装で欠陥を改善出来るならば残置するべきであろうが、恐らく、根本的な解決には至らないだろうな」


 同意する声が上がった。


「また、陸奥の保有で米英が自国も16インチ砲搭載戦艦を要求してくるかもしれません……ならば、先手を打って、我が海軍でも将来的に扱いに困ることが明白な扶桑型を生贄として差し出せば……」


「なるほど、英米の16インチ搭載艦を制限出来、なおかつ、彼らの言い出したことを履行させるためにこちらの比率に合わせて彼らの戦艦を減らせるかもしれん」


「だが……」


 慎重な意見は意外と少なく、大勢は決まった。


「扶桑型2隻を廃艦として、代艦として陸奥の保有、加賀型と天城型4隻の空母改装を認めるように交渉を進めるように打電しろ」

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