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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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やっぱり問題は発動機

皇紀2585年(1925年)6月15日 帝都東京


「遅くなって申し訳ない……。例の5・30事件のおかげで、仕事が溜まっていてなかなか片付かなかった……。シベリア出兵が済んで大陸から戦火が止んだことで暫くは兵を休ませることが出来ると思っていたが……この調子では支那で反日反英の事件が起きれば今以上に燃え上がりそうだ……」


 ここ数日参謀本部に呼び出されていた東條英機大佐は海軍陸戦隊が上海に上陸したことで一応の安定を見たことから通常勤務に戻り、定例の有坂邸謀議に参加することとなる。


 最近では有坂邸謀議の参加者は拡大の一途をたどっている。


 陸軍からは東條、原乙未生中尉が常連と化している。海軍からは平賀譲少将、鈴木貫太郎大将。政治家は後藤新平、仙石貢。財界・産業界からは中島知久平、鮎川義介、五島慶太、堤康次郎、小林一三が参加している。


 財界・産業界からの参加者を見る限りでは経済に関しては自由主義的立場のものが多い。


「今回は偶発的な出来事だったと思いますが、明確に支那は我が帝国を目の敵にしてくることでしょうね。しかし、大英帝国が策源地として我が帝国との関係改善を望んでいるとは、大英帝国も苦しい台所事情なのでしょうね」


 有坂総一郎は東條の5・30事件への感想に頷き面々の思いを代弁した。


 昨年の欧米歴訪で民間同士の接触以来、大英帝国は極東におけるパートナーとしての役割を担う存在として大日本帝国の重要性を改めて認識、同盟締結というような具体的な動きはないが、協調姿勢を打ち出している。


「台所事情で言えば、我が鉄道省も同じだがな」


 仙石が自嘲気味に笑った。


 先日の貨物駅視察でコンテナ貨物輸送の問題でこれへの対策に頭を悩ませていたからである。


「想定よりもコンテナ輸送に貨物が集中したおかげで運用が回らないとは鉄道省も大変ですな」


 阪急総帥の小林にとっては自社と競合する鉄道省の右往左往は笑い話でしかない。


「いや、フォークリフトの不足は承知の上だったのだが、それ以上に問題であるのはトラックの数とその積載能力なのですよ……貨物駅で貨物が滞留してしまうことで輸送力の拡大の意味がなくなっている状態になりつつあるのですよ」


 仙石は資料を鉄道会社を率いる面々に配ると渋い顔のまま茶を啜る。


 フォークリフトの生産については有坂重工業から他社が請け負うことでライセンス生産し量産を図ることとなったので近いうちにある程度の目処が付くこととなったが、問題は処理能力が拡大するとその分だけ貨物駅に積みあがる中身の入ったコンテナが溢れるということだ。


「今のトラックに積載出来るのはせいぜい2トン。ホラ、シベリア出兵で活躍した瓦斯電のTGE-Aがそれくらいだ。だが、コンテナは中身を入れれば3~6トンになる。これではコンテナ1個の荷物を捌くのに3台はトラックが必要となる……。積載量を仮に我慢するとしても、陸軍の自動車化が進む今、トラックはいくらあっても足りない……」


 仙石の表情は深刻さを増す。


「そもそも、積載量が足りない原因はどこにあるのですかな?」


 堤は核心を突く質問をする。


「そりゃ、堤さん、発動機の出力でしょう。機関車や電車と同じで、発動機の出力が低ければ積載量は減る。そして、我が帝国の内燃機関の技術水準はとてつもなく低い……いや、欧米でも6トン積載出来るトラックは無いかもしれないけれどね」


 五島はさらっと答える。


「そう、そこなんだよ……今の発動機はせいぜいが50馬力程度だ。これをコンテナ1個丸ごと運べるようにしようと思えば恐らくは200~300馬力は必要なんだ……」


 仙石は五島を補足するように言う。


 大英帝国で現在研究開発中のヴィッカースC型中戦車ですら130馬力であり、この当時の平均的大馬力エンジンの倍の能力を要求される。


「300馬力あればいいんだな?」


 黙って事態の推移を見ていた中島が口を開く。


「300あれば鉄道省が満足出来るトラックが出来るとそう言うのですな?」


 中島は重ねて尋ねる。


 仙石は黙って頷き、答える。


「先日、瓦斯電に行って技師に聞いたらおよそそれくらいあれば……と言っていたよ」


「ならば、うちが450馬力の航空機用水冷発動機を提供すれば事足りますな」


 列席の面々は揃って「そんなものあるのか?」という表情で中島を見る。


「海軍の指示でライセンス購入したローレン四五〇馬力発動機がありますからな……これを適正な馬力に調整してトラックに載せれば良いのではないですかな? 他にも陸軍さんが戦車などに載せたいというのであれば増産致しますぞ」

ローレン四五〇馬力発動機

額面の数字だけ言えば、日野自動車のトラック日野プロフィアに搭載されているエンジンとほぼ同じ馬力と回転数なのよね。


で、この時期に陸上用のガソリンエンジン、ディーゼルエンジンともにそこまで大きい馬力のものは見当たらない。


米軍の二次大戦時の軍用トラックは概ね100~200馬力。積載量は2~6トン。


M25戦車運搬車が240馬力。その前身M19戦車運搬車も200馬力程度、その前身の英軍のスキャメル・パイオニアが100馬力。トレーラーであることもあって20~40トン積載。ただ、スキャメル・パイオニアは非力だったというから適正馬力はやはり200は必要ということだろう。

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