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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2585年(1925年)

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鈴木商店の立て直しとアンモニア事業の売却

皇紀2585年(1925年)5月7日 帝都東京


 銀座赤煉瓦でハッシュドビーフを堪能した後、有坂夫妻は自邸へ帰宅するが、思いもしなかった人物がそこで待っていた。


「やぁ、有坂君。すまないが、君が戻ってくるのを待たせてもらった」


 有坂邸の応接間で有坂総一郎の帰りを待っていた人物、それは鈴木商店の金子直吉であった。


 金子はアンモニア事業以来の付き合いで、同事業の進捗を確認するために度々神戸の鈴木商店本店で総一郎と何度も顔を合わせている。


「金子さん、あれ以来、何か変わったことでもあったのですか? あぁ、もしそうだったら電報で知らせてくださっていますね」


「ええ、今日寄らせていただいたのは別件で上京する必要がありましてな、その用が済んだのでこうして神戸に戻る前に寄らせていただいたのですよ」


 金子はこの後、大阪行きの夜行急行列車で神戸に戻るという。


「前もって知らせていただけましたらおもてなし致しましたものを……」


「いや、それには及びませんよ。今日寄らせていただいたのは、今年の秋にはアンモニア事業、帝国窒素の生産が軌道に乗りそうでしてね、思ったよりも早く稼働状態になることで、その製品の販路について有坂君の考えを聞こうと思いましてな」


 金子や鈴木商店は海軍との付き合いが深いこともあって当初は弾薬用にと考えていたが、陸軍主体のシベリア出兵も終わり、海軍は海軍で平賀譲少将の計画的な建艦計画遅延による影響で弾薬製造需要が減ってしまったことで、稼働が早まったことによる生産過剰状態に危機感を募らせたようである。


「陸海軍の需要が減ったことで供給過剰になりそうだ……と解釈してよいのでしょうか?」


「有体に言えばそうだね。肥料に振り向けることも考えてはいるんだが、それとて需要に対して供給が大き過ぎると見積もりが出ていてね……現在の日産10トンではなぁ……」


 明らかに少なすぎるそれに総一郎の方が落胆した。


 史実でも日産5トンの能力であったが、すぐに供給不足に陥り増設する羽目になっている。そして、戦時下においては明らかに10トンどころか50トンでも足りないくらいだ。


「金子さん、工場と設備の増設をお願いしたじゃありませんか、これでは明らかに供給過剰ではなく、供給不足です。彦島工場だけでなく、すぐに延岡工場の増設も実施してください」


「いや、それなんだが、台湾銀行からこれ以上の資金融通が出来ないと先日通達が来て、同時に監査も来たんだ。まぁ、そういうわけで増設の話はなかったことになったのだよ……で、採算が悪化しているということでアンモニア事業から手を引けと勧告されたのだ」


 確かにこの時期、鈴木商店は非常に経営環境が悪くなっている。アンモニア事業の帝国窒素に有坂系企業集団が出資をしていたがどうやら実情はそれ以上に悪化していたのだそうだ。


 金子は総一郎を見上げるように言った。


「有坂君、すまないのだが、帝国窒素を買い取ってくれないか? 君の才覚で帝国窒素を運営する方が良いと思う……そして売却したそれで私は鈴木商店を立て直さないといけない……」


 金子が態々訪ねてきた本題はそれだった。


 資金繰りの悪化した状況である以上、表面上不採算である帝国窒素を売却することで台湾銀行や他の出資者からの鈴木商店経営陣への不満を幾分か緩和し、状況を立て直すのが金子の現在優先すべき仕事だったのだ。


「わかりました……帝国窒素は買い取りましょう。御社、鈴木商店がまた出資したい場合は遠慮なく申し出てください。アンモニア事業は金の成る木です。いずれ黒字化は間違いないのですから、経営環境が改善されたらすぐにでも参加してください」


 金子は深々と頭を下げ、総一郎の両手を握った。

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