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四か国条約

皇紀2581年(1921年)12月13日 アメリカ合衆国 ワシントンDC


 日本側全権団の主義主張はアメリカ側の諜報活動によって本国との通信を傍受され、史実通りに退けられ、日英同盟の破棄とそれに代わるアジア太平洋地域の安全保障を担保する四か国条約が日英米仏によって締結されるに至った。


 同条約は締約国の当該地域における特殊権益、領土、属地の相互尊重と国際問題処理などを取り決めたものであり、日英同盟の破棄を代替するという名目での発展的解消という形を取られている。


 だが、実際はアメリカ合衆国の都合による対日封じ込め的意味合いが強い。アメリカは自国領のフィリピンとグアム、そして本国及びハワイという太平洋横断ルートに対する日本側の妨害を懸念し、また、アジア太平洋地域への日本の影響力増大、軍事的存在感が自国権益への脅威と感じ、日本の外交的な支えである日英同盟の破棄を迫ったのである。


 また、大英帝国も日英同盟の有効性とその功績は認めつつも、対米関係を考慮すると要らぬ誤解と懸念を払拭する必要があった。そして、イギリス本国における対日不信、相互利害の対立といった問題もあり、四か国条約という形で発展的解消することが彼らのベターな結論であったのだ。


 これによって、表面的には協調を望んでいた大日本帝国であるが、旧連合国との溝が深まり、実質的には敵対関係へと衣替えせざるを得なくなった。


 この条約はあるものにとっては満足な内容、またあるものには妥協の産物、そしてあるものには不満な内容であり、これが後の火種となるのは火を見るより明らかであったが、国力で劣るものには受け入れざるを得ないものであった。



 ワシントンDCを流れるポトマック河畔に日本全権団の姿があった。


「徳川さん、これでは本国も黙ってはいますまい……総理には思いっきりやって来いと言われているのに……これでは成果がないも同然だ……」


 首席全権である海軍大臣加藤友三郎は溜息をつきながら貴族院議長徳川家達へ愚痴をこぼした。


 各国の記者団にその痩身から”ロウソク”と呼ばれた彼であるが、今にも火が消えそうな心許ない姿であった。


「だが、本国の要求がそもそも無茶だったのかもしれん……また、どうもアメリカには情報が洩れている節が見受けられる……今後は本国とのやり取りは控えて、我々だけで乗り切らねばならんだろう……」


 徳川はここ数日の会議を思い出しながら答えた。こちらが受け入れ可能な限界点を狙っているかのような要求がいくつも出て来ていることを彼は感じ取っていた。


「そうですな……ここからが正念場……褌を締めなおしてかからねばなりませんな……」


「日英同盟が破棄されることとなった以上、我が帝国は外交方針を一新せねばならん……当然だが、軍備についても再考せねばならんだろう……加藤さん、海軍大臣であるあなたの手腕にかかっていると言わざるを得ない……対米均衡を図りつつ、融和を目指す……これが基本だ」


 徳川の言葉に加藤は苦い表情を浮かべた。


 対米均衡を望めば会議は紛糾することは容易に想像出来、融和協調を図れば対米均衡は望めない……。


「恐らく、これから本番の軍縮条約は厳しいものになる……私が推進した八八艦隊も槍玉に上がる……圧倒的に海軍力で劣る我らが対米、対英に対峙するには八八艦隊の建設が必須……しかし……」


「少なくとも英米7割。これ以上になると……厳しいでしょうな」


「しかし、本国の財政状況からは6割が妥当……そうなると扶桑型などの実質的な欠陥戦艦を残さざるを得ない……それでは戦力としては不足だ……」


 彼らの会話は誰にも聞かれていないが、大日本帝国の国力の限界を示すものであった。


「加藤さん、確か、加賀は既に進水していたのでしたな?」


「ええ、海軍としては加賀型を航空母艦へと改装する方向で軍縮会議へ提案することとしています。土佐もまもなく進水します」


 2隻の戦艦を空母へと改装することで一定戦力の保持へと舵を切っていた帝国海軍であるが……果たしてその目論見は如何に?


「いずれにせよ、国家財政を考えると対米6割やむ無しではありますまいか?」


「確かに、財政や国際協調を考えて、軍縮反対派を牽制する意味で総理は私を首席全権としてここへ派遣したのですが……」


「出来る限り、総理の意味に沿う様に頑張りませんとなりませんな……」


 頷きあう二人であったが、その表情は暗いものであった。

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