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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2584年(1924年)

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トランジスタへの第一歩

皇紀2584年(1924年)11月8日 帝都東京


 その後、恥ずかしさからいたたまれない様子になった有坂総一郎を有坂結奈は暫く玩具にして遊んだ。


 彼女の気が済むまで東條英機大佐は我関せずの表情で食事を続ける。


――いたたまれないのは貴様ではなく、この私だ。一体何ゆえ、こんな恥ずかしい姿を見続けなければならんのだ。何かの嫌がらせか?


 東條は内なる思いを言葉にせずにはいられなかった。だが、そこで言ったところで仕方がない。自身も家庭では妻に甘いところがあるからだ。


 ようやく気が済んだ結奈が東條に話を振る。


「東條様、ごめんなさい。つい、旦那様が可愛くていじり倒してしまいましたわ」


「あぁ、構わん。夫婦仲が良いのは結構なことだ……有坂がアレなのは……まぁ、自業自得だろう」


 東條はそう言い、この空気をさっさと流してしまいたかった。


「それでだ、私が此度訪れた用件なんだが……話しても良いか?」


「……ええ、結構ですよ。どうぞ」


 総一郎はややぶぜんとした表情で答える。


「先だって平賀少将と会談したのだが……まぁ、内容は近況報告と情報の擦り合わせが主だったが、少将との同意項目として電探の件があった。それで貴様に意見を求めようと思ってきたのだが……」


「ほぅ、電探ですか? そうですね、そろそろ頃合いでしょうか」


「あぁ、東北帝大には技術将校を派遣しておって、八木・宇田両氏の近辺を探らせておる。彼らが基礎理論を確立した段階か何らかの発見をした段階でこちらに連絡が来るように手配してある」


 東條は東北帝大の八木宇田チームの監視を総一郎に告げた。


「両博士が研究発表をする前に情報の確保と隠蔽を行う必要がありますね。恐らく、今年中には何らかの実験とその結果が出るでしょうから、来年にその再現と考察結果が出る筈です。つまり、来年が勝負の時となるでしょうね。彼らに研究を公表させないことが大事です。それだけで英米の電探開発が数年遅れます」


「そうか、では、実験結果が出た時点で両博士の拘束し、陸軍に移籍させることにしよう……技本に話を通しておく……」


「ええ、そうしてください。彼らが電探の重要人物ですから、絶対に根っこで情報流出を止めなくてはなりません」


 東條と総一郎の会話に結奈は若干引いている。彼らの会話は実質的なところ、犯罪臭しか漂ってこない。拘束だの隠蔽だのと真っ黒なことこの上ない。


「お二人とも、レーダー……電探を造るのは結構なことですけれど、日本製の真空管では満足な性能にはならないのじゃないかしら? その辺りはどう考えていらっしゃるのかしら?」


 東條と総一郎は二人揃って遠い目をする。


 彼らは実際問題、技術的な話が出来ないのであくまで方向性や方針について語り合うことしか出来ていない。目を背けたい話題である。


「呆れましたわ……。化学に疎い旦那様は兎も角、東條様もそんな調子では、八木宇田アンテナとその理論を隠匿しても何れ同じ失敗をしますわよ?」


 結奈の指摘に彼らは顔を見合わせる。


「来年、カナダでトランジスタの特許が出る筈ですから、それを実用化することを条件に技術者……リリエンフェルト氏と言ったかしら? 彼を日本へ連れてきて研究させればよいと思いますわ。ただ、問題は高純度ゲルマニウムがトランジスタの製造には必須ですから、これの精製を餌にする必要がありますわね……」


「そんな技術って確立されていたっけ? そもそもトランジスタの開発は戦後だし、効率よく高純度ゲルマニウムを精製する技術も戦後じゃなかったか?」


 総一郎は結奈に尋ねる。


「ええ、ゾーンメルト法というものですわね。インゴットから不純物を分離する方法なのだけれど、理屈は割と簡単なものですわね。細い棒状のインゴットを用意して、これの末端を溶かすのね。でも、溶かすと言っても、溶け落ちる様なものではなく、形状を維持した状態ね。そして、過熱している場所を随時移動させて端から端まで溶かしていくの。そうすると溶けた側に不純物が転移していくのよ。結果、不純物は末端側に移動して、芯の部分などに高純度ゲルマニウムが残るというものね」


 結奈はさらっと要旨説明をしたが総一郎は何を言っているかわからないという表情だった。東條は何となく理解出来たような表情をしている。


――あぁ、こいつは駄目だ。ホント、理系が駄目だな。


「それを実用化出来るのか?」


 東條は結奈に聞いた。そう、結奈にだ。


「ええ、基礎理論の確立くらいならそんなに時間はかからないと思いますわ。流石に量産出来るような施設を造るにはそれなりに時間が必要でしょうけれど」


「東北帝大の金属材料研究所の本多光太郎氏に紹介状を書くから、一度その話を彼としてみてはくれないだろうか?」


「ええ、お任せくださいな」


 結奈は東條の依頼に満面の笑みを浮かべて承諾した。

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