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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2584年(1924年)

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銃後の労働力問題

皇紀2584年(1924年)11月8日 帝都東京


 電気炊飯器によって炊かれたご飯を頬張る有坂夫妻と東條英機大佐。


「今日は上手く炊けたみたいですわね」


 有坂結奈は上出来という表情で満足そうである。


 有坂総一郎が考案し、製造させたこの電気炊飯器は構造上の欠陥で感電しやすいという問題を抱えているが、技術的難易度は低いため製作日数は比較的短期間であった。だが、最大の問題は感電よりも生煮えしやすいということだ。


 水質と米の砥ぎ具合で美味く炊けたり、生煮えしたりと加減が難しいのだ。ただ、一定の条件さえクリアすれば技術的難易度の割には上出来な炊飯が可能なのだ。


「炊飯の最適条件が一定ではないのであれば竈炊きの方が美味い飯が食えるのではないか?」


 東條は一見もっともらしいことを言う。


「現状ではそうですが、いずれ、安全で完全に機械任せな炊飯が可能になりますよ。そうなれば、家事の中でも特に時間のかかる炊事への手間が減れば、銃後で使える人材が増えることを意味しますよ」


 総一郎は家電の普及はメリットがあると東條に言う。


「朝の内に炊事洗濯を終わらせれば昼前から夕方まで家事に拘束されずに女性は時間を余らせることとなりますわ。夕方に帰宅してから炊事を始めても家電……家庭用電化製品があれば炊事の時間は短縮出来るのですから、結果として昼間の労働力の増強が可能になるのですわ」


「支那事変から後、徴兵招集によって男たちが兵役に就いたことで不足する労働力を女性の動員で賄っていたでしょう? 最初は運転士や車掌、バスガールとかですか。それから、戦局が悪化すると女学校の学生を軍需工場へ動員していたわけですよね? それを前倒しして、しかも、家事の負担を減らすことが出来れば前世よりも実質的には効果が大きい……と思いませんか?」


 夫妻揃って家電の偉大さを東條に説く。


 女たちの家事負担が減ればその分だけ労働力に転換出来るのは現代社会が示す通りだ。もっとも、現代のそれがすべて正しいとは言わないし、弊害も出て来ているが、それはまた別の話題だ。


「確かにそれは道理だな……」


 東條は理屈が通っていることから一応は頷く。


「まぁ、私としては余り女性の社会進出ってのは歓迎したいものではありませんがね……結果として女性が負うべき役割というものを忘れる不心得者が蔓延る原因ですから……」


 総一郎は現代の腐った部分を思い出して吐き捨てる様に言った。


「旦那様ったら現代女性嫌いがまだ治ってないのですわね……」


 総一郎の女性嫌い……現代的価値観による女尊男卑傾向への反感が再発したと溜息を吐く。


「いやだってな、あのゴミフェミどもと結託した女性様の傲岸不遜なアレはだな……」


「そもそも、あなたにはそういう女性は縁がなかったでしょうに、いい加減にそんな病気忘れなさい。あなたには私がいるじゃない」


 結奈はそう言って総一郎を諫める。


 東條はそんな二人を見て呆れの表情を浮かべる。


――こいつらの生きた時代は一体どんな世界だったのだろうか……我らが、英霊たちが血を流した意味があったのか?


 東條はそう思うと軽い眩暈がした。昭和の忠臣と自他ともに認める彼にとって数十年後の世界は存在を認めがたいものであろうと確信が持てた瞬間だったからだ。


「それで、貴様はどうしたいのだ?」


「一定の枠内での社会進出にとどめるべきかと考えますが、有能かつ才能豊かな女性は引き上げてやるようにすべきかと……」


 東條は総一郎の提案に納得した。無制限の社会進出は危惧すべきものだが、有能な存在を活用せずに葬るのは間違いであるからだ。


「まぁ、確かに結奈さんの様な才媛は埋没させておくには惜しいとは思うな」


「そうでしょう、そうでしょう! ほら、旦那様、これが世間の評価というものですわ」


 東條のお世辞に結奈は上機嫌となり総一郎にもっと自分を褒めろと要求する。


 実際に結奈はこの時代では稀有な存在であると言っても良い。高等教育を受けているし、理系の知識も有している。場合によっては総一郎よりも遥かにチートな存在だ。


「あぁ、感謝しているし、認めている。だが、それを言葉にするのは……恥ずかしいだろう」


 総一郎はヤケクソになってそう言った。

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