陸奥問題
皇紀2581年11月15日 アメリカ合衆国 ワシントンDC
ワシントン会議第二回総会がこの日開催された。
第一回総会で大英帝国は既存の保有戦艦の削減を要求された。大英帝国は欧州大戦まではアメリカの3倍もの海軍力を保有し、世界最強の海軍国であった。
だが、アメリカの提案では保有する戦艦の半数を廃棄する必要があった。その為、首席全権加藤友三郎は、大英帝国の反発を期待していた。
……が……。
「我が大英帝国は、世界各地に領土が散在し、その防備が難しいという事情があるが、アメリカの提唱する軍備縮小案の主義精神にはこれに誠心誠意の賛同を表明せざるを得ない」
大英帝国全権外務大臣アーサー・ジェームズ・バルフォアの発言に議場は騒然となった。
加藤の期待は裏切られる格好となったのだ。
加藤はそこでゆっくりと立ち上がり、口を開いた。
「我が帝国は、米国の提案する理想に共鳴するものである……ゆえに、この提案を受諾し、海軍軍縮に着手する用意があることを」
日本側の反発を予想していた各国代表団は驚きをあらわにしたが、すぐさま壮大な拍手を送り歓迎したのであった。
「ただし、受け入れ条件に関しては別途検討し、改めて提案することとする」
彼は無条件受諾を出来ないと釘をさし、猶予を得る作戦に出た。
「我が大英帝国も世界最大の海軍国としての伝統的地位を放棄するという犠牲を払うのであるならば、大日本帝国の竣工している長門は兎も角、陸奥は認めるわけにはいかぬ」
横須賀で”建造中”の陸奥は、公式には”竣工”しているとして大日本帝国は主張している。そして、事前の査察が行われていたが、その査察は事実上失敗に終わり、英米は未完成である明確な証拠を得ることは出来なかった。
それゆえ、この場でも未だに陸奥の廃棄を要求しているのは、軍縮条約で旧式艦艇を放棄した結果、日本だけが新型艦艇を有する状態になることを避けるためである。
いわば、日本だけが建艦競争で勝ち逃げしている状態であることが彼らにとって不満である証明なのだ。
「これは異なことを申される。米国は本会議開催に間に合わせるように、メリーランドを完成させておられるではないか?左様なことをされておるというのに、我が陸奥を認めぬというのは筋違いというものではないか!」
日本全権団は異議申し立てをした。
さすがにこれにはアメリカ側の攻撃の手がひるまざるを得なかった。
そう、抜け駆けをしたのは他でもないアメリカ自身だったのだ。
「確かに、メリーランドの竣工はつい先日でしたな……。」
バルフォアは目を細めて応じた。
イギリスにとっても面白くない事態である。イギリスはこの時点において建造中の新型戦艦は存在せず……しかも、16インチ砲搭載艦も存在していない。圧倒的に一人負けしている状態なのだ。
会議を主導するヒューズは傷口が広がらないうちに会議を持ち越すこととした。
「各国全権団は、本提案を持ち帰っていただき、明日以後の討議に備えていただきたい。では、散会!」




