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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2584年(1924年)

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東郷ターン<2>

皇紀2584年(1924年)8月 帝都東京 海軍省


「従来の戦艦を主軸とする大艦巨砲主義の方が安上がり」


 東郷平八郎元帥大将の主張に平賀譲少将はひるまざるを得なかった。


 戦艦1隻を建造する経費より空母2~3隻建造する方が安いことは建艦予算で明らかである。だが、空母は建造したらそれで御仕舞ではないのだ。むしろ、そこからがスタートラインである。


 空母はあくまでプラットフォームであり、それそのものが矢面に立って戦力として寄与するわけではない。そこに搭載する航空機とその搭乗員が重要なのである。そして、戦艦や巡洋艦に比して、空母の搭載している弾薬は限られていて攻撃可能数というのは意外なほど低いものだ。


 例えば、信濃1隻(大和型三番艦として)の建造予算は1億4770万円であり、同時期に建造された雲龍1隻の建造予算が8700万円であるが、極論を言えば、信濃は完成してしまえば弾薬を搭載すれば無理やりにでも戦力化は可能だ。命中するかどうかは別とすれば。


 だが、雲龍は航空機60機程度と120名程度の搭乗員を別途育成して搭載する必要がある。要は空母単体では鉄の箱でしかないということだ。そして、航空機は生産すればそれで解決するが、搭乗員はそうはいかないのだ。2年から3年もの修練をやってはじめて一人前と言える。


 つまり、そこには目に見える部分と目に見えない膨大な経費が別にかかっているのである。


 東郷はそれを見抜いたうえで主張していたのである。


「平賀君、確かに将来的には大型爆弾を抱いて敵艦へ肉薄することも可能になることだろうよ。あぁ、三笠の時代が長門の時代に代わったように技術は進化する……だが、極端はいかんよ……。海軍の戦力は総合戦力でなければならない。突出した戦力では国防を担うには危険だと思うがどうだね?」


 東郷の正論に平賀は黙らざるを得なかった。


「それにだ、君の設計した夕張型だが……確かにアレは上手くまとまっていると思う。だが、無理をし過ぎているとは思わないか? あれでは、いずれ重大事故を起こしかねない……君ら造船屋が用兵の都合を押し付けられて苦労していることはわからんでもないが、もう少し丁寧な軍艦を造ってもらえんとな」


 東郷の平賀への苦言はそれからも暫く続き、流石の平賀も転生者として色々と思うところはあったが、東郷の正論には抗うのは難しく黙って耐えるしかなかった。


「元帥、それくらいで如何ですかな? 平賀君の言うことも十分に考えてやるべきものであると思いますし……それに元帥もその装甲空母に興味を持っておられるのではないのですか?」


 それまで静観していた連合艦隊司令長官鈴木貫太郎大将は東郷の苦言が一息ついた頃合いで平賀に助け舟を出すように言う。


 鈴木も東郷の言うことを理解し、彼らのやり取りを見ながら頭の中でざっと計算していた。そして、落としどころを見出したところで口を挟んだのであった。


「どうです? 元帥も仰る通り総合力に富んだ艦隊編制を目論むためにこの装甲空母など航空戦力を用いては? いずれにせよ、加賀型と天城型は空母改装を進めねばならんのですから、彼の主張を取り入れて活用するのは元帥の考えにも合致しますが」


 鈴木は連合艦隊各艦隊にバランスよく空母を配備し、哨戒や偵察に当たらせるという考えを示した。


 現状において航空機の運用は限られている。ペイロードが低いこともあり、積極的な爆撃などは実質不可能だ。であるならば、制空戦や艦隊直衛、偵察哨戒に用いることが適切であり、主な艦艇に分散して水上機を配備するよりも空母に搭載してまとめておく方が有利だと考えるべき状況だからだ。


「航空戦力は出来れば集中して運用するべきではあると考えますが……技術的進展が行われるまではそれがよろしいかと存じます……」


 平賀は鈴木に控えめではあるが賛意を示した。


「鈴木君がそう言うのであれば、まぁ、そのくらいにするとしよう……だが、平賀君、極端はいかんということを忘れるな……用兵の長である鈴木君が艦隊運用については一考するのは構わんと思う……」


 東郷平八郎元帥大将は言いたいことを言い終わると平賀の持ってきた装甲空母の模型をじっくりと眺めた。どうやら、口ではああ言っているが、結構気に入っているのかもしれない。


 一方の平賀譲少将は鈴木貫太郎大将の口添えによって難を逃れた形となった。が、造船について注文が付いた形となったことで、今後建造されるであろう巡洋艦について大きく史実とは異なる方向へ舵を切ることになりそうである。

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